ちょっと
暑苦しいサマーソングばかり紹介してきた気がするので、次はコアな音楽ファンじゃなくても楽しめる爽やかなサマーソングを選曲したいと思います。
おそらく、これまで採り上げたなかでもっともわかりやすい曲だと思います。
ビーチハウスで流れてきたなら思わず口ずさんでしまうに違いない。シェリル・クロウの“ソーク・アップ・ザ・サン”。
打ち込みをバッグに軽やかなリフが爪弾かれる。ハッキリしたヴァース/コーラス構造になっていて、サビではキレイにダブル・トラック録音されている。
言ってしまえばなんてことのないポップなロックですが、細部までしっかりデザインされたアレンジで、さすがポップ職人としての意地を見せつけられる。海へのドライブで聴くには最適なナンバーかもしれません。
このように夏がよく似合うシェリル姉さんですが、実は鬱病を患っていて、以前から長いこと闘病生活を余儀なくされてたことをご存じでしょうか。“ソーク・アップ・ザ・サン”での澄み切った青空からはとても想像できない素顔で、それを知ったらなんだか曲の印象も変わってきてしまいそうだ。
シェリル・クロウはもちろん音楽で成功できた数少ない人間だが、その一方で自分がやりたい音楽と、リスナーに期待されている音楽との間で、常に埋めようのないギャップを感じていたという。なまじ大衆を惹きつけるキャッチーなメロディ作りに定評がある作家だっただけに、周囲が自由な創作の場を与えなかったのだろう。
このような事情を知って、まず思い出さずにいられないのがビリー・ジョエルである。ビリーも80年代後半あたりで、大衆向けのヒット曲を量産することに疲れて引きこもっていた時期があった。
もっとも、彼は有名になる前から鬱病で自殺未遂を繰り返していたらしいが、そのときの原因もバンド活動の行き詰まりによるものだった。そしてビリーもまた、キャッチーなメロディ作りで知られる言わずと知れた名シンガー・ソングライターである。さらにこじつけると、両者とも成功するまでに長い時間を要した苦労人タイプでもあった。
これは断言してもいいが、長い下積み時代を送ってきた音楽家というのは、成功した後もほぼ例外なく売れることに貪欲である。彼らは自分の音楽がどれだけ高い評価を得ていても、それが数字に結びつかなければ完璧には満たされないことを知っている。
あの惨めな生活だけは絶対に繰り返したくない。音楽だけで生きていきたい。そんな想いからか、彼らは人一倍努力するし、周囲の期待にできるだけ応えようとするし、より危機感をもってヒット曲を書き続けようとする。
そうやって皮肉なことに、ますます「自分らしい音楽」とは真逆の方向性に向かっていく。
…ポップ・スターで生き続けることは大変だ。
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