2011年の東日本大震災の直後、スピッツの草野マサムネが急性ストレス障害で倒れてツアーをキャンセルしてしまった、という当時話題になった件を思い出した。
想像を絶する被害の甚大さが連日メディアから報道されたことで過度なストレスを感じ、それが精神的な障害にまで発展してしまったそう。本人はもちろん親族の誰も被災していないのに勝手に参ってしまっているので、当時は「エア被災ww」と揶揄されていたが、僕は非常に草野さんらしいエピソードだと思って眺めていた。
知らない誰かの心情に寄り添い、共感して、それを歌という形に昇華することを生業にする、いわゆるアーティストと呼ばれる人たちというのは往々にしてこういうことが起こる。(彼はおそらく感受性が強すぎて、多くの悲しみを自分事として捉えすぎてしまったのだろう)
というわけで今回取り上げるのは、震災を経て制作された2013年作『小さな生き物』。病気はすっかり回復した後なので、震災の影響は直接的には感じられないかもしれない。だが一切ストリングスを使ってないこともあり、「もう一度バンドだけで足元を見つめていこう」的な、ドッシリと地に足の着いた現実感と暖かみが感じられる作品である。(このタイトルも示唆的だ)
そしてソングライティング面で言うと、ビリー・ジョエルっぽい作風を目指したという本作。ビリーと言ったら、職人的な寡作な作家というイメージで、おそらくパンキッシュでいささか直截的とも言えた『
とげまる』からの反動もあってのことだろう。たしかに歌謡曲的な情緒を携えた曲が少なくない。(“ランプ”とか)
ただし、引き続き、亀田誠治がプロデュースを務めているせいか、良くも悪くも音圧の強いモリモリしたサウンドで、曖昧な部分が少なすぎるというか、おそらく本人たちが当初想定していたようなもうちょっと素朴なビリーっぽい大衆路線とは離れている気がする…。相変わらず、『三日月ロック』症候群を引き摺っているのだろうか。(とりあえず安定感は半端ないけれど)
個人的なハイライトは、まるでミッシェル・ガン・エレファントか?と思わせるようなリフ主体の男臭いロック“scat”から、打ち込みで作られたまさかのディスコ・チューン“エンドロールには早すぎる”。この振り幅のデカさ!
“野生のポルカ”とか“潮騒ちゃん”もそうなんだけど、後半は意外と遊び心のある曲も少なくなく、あまり真面目すぎないスピッツ作品という意味でも楽しめる1作。(というか震災は全然関係ないかも)
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