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2010年04月03日00:04

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Off the Wall/Michael Jackson

 マイケル・ジャクソンの訃報に関して、僕はいままで静観を決め込んでいたわけですが。

 その理由は、そんなにファンじゃなかったというのが一つ。というのも、彼がその後の音楽シーンにもたらした功績・功罪などをあげつらったとき、どちらかというとマイナス面のインパクトが目立った印象があった。(音楽の巨大産業化、ビジュアル表現を不可欠にした、黒人音楽を必要以上にポップにした、など)あくまで所感ですが。
 あと、『スリラー』にはろくな思い出がないという(笑)。これは個人的な思い出に過ぎませんが。

 ただ、それでは食わず嫌いも甚だしいということで、音楽ファンのあいだでもっとも評価の高いとされる『オフ・ザ・ウォール』を手に取って、真剣に聴いてみることにした。これはモータウンを離脱したマイケルがスタジオでの主導権を握り、アーティストとして自立したはじめての作品として知られている。

 まずは、クインシー・ジョーンズの大仰なシンセ・サウンドで幕を開ける“今夜はドント・ストップ”。相変わらず演劇的なイントロダクション。この曲を筆頭に、序盤はエレクトロニクスをふんだんに用いたファンキーなディスコ・ナンバーが続き、息つく暇を与えない。
 その後はメロウな“オフ・ザ・ウォール”で序盤のハイライトを迎える。意外にも、楽曲の質の高さには目を見張るものがある。
 そして、その後のブラック・コンテンポラリーにも通じる“あの娘が消えた”が登場。正直、この手のウェットすぎるバラッドは苦手なのだが、この流れで来ると嫌味に感じない。むしろ泣ける。
 さらに、ポール・マッカートニーの“ガールフレンド”、スティーヴィー・ワンダーの“アイ・キャン・ヘルプ・イット”など、言わば英米を代表する二大メロディ・メーカーが曲を提供しているというトピックスもある。冒頭5秒で誰の曲か分かってしまうさすがの大御所ぶりを発揮しているが、これらでさえアルバムの主役を張ってないという事実が、なにより楽曲の充実ぶりを物語っている。
 この二人をはじめとして、本当に沢山のミュージシャンが制作に携わってるみたいです。マイケルの自作曲は少なく、彼の作家性みたいなものは様々な仕掛けの中に埋没しているように感じられる。もはやマイケルの音楽的貢献がどこにあるのかわからない状態ですが、それでも紛れもないマイケル・ワールドになっているところが凄い。

 これは彼のシンガーとしての資質とも関係してくると思いますが、いわゆる天才シンガーは「どんな曲でも自分のものにしてしまう」とか形容されたりしますが、マイケルの場合はそれとは逆だと思うんです。
 彼は楽曲の魅力を最大限に活かすべく、自分自身を楽曲に合わせてカメレオンのように作り変えてしまうタイプ。だからバラッドでは徹底的に甘く、ディスコでは徹底的に躍らせる。テクニックを捨てて素朴に歌うこともある。いわゆるゴスペル歌手のように歌で間を埋め尽くしたりせず、必要ならば後方に引いて空白を活かすことも辞さない。
 実は歌い手としてのエゴは皆無に近く、彼が妥協を許さなかったのは、最終的に自らの手でいかに楽曲を底上げできるかというクオリティーに対するエゴだったり、それを効果的に見せるためのパフォーマンス/プロモーションに対するエゴだったんじゃないだろうか。
 そんな彼のプロデューサー的資質(音楽プロデューサーという意味ではなく)が芽生え始めたのが本作であり、突き詰めていくと、実はマイケルって本来はただのポップミュージック・オタクだった、という気もする。彼は音楽の「旨み」をその手に触れた瞬間にすべて解読し、全身で感じ取ることができた――おそらく一握りの天才だ。幼少からショービズ界に身を捧げてきたマイケルにとって、その喜びをエンターテインメントに昇華するのは造作もないことだったはず。

 ただし、その後のマイケルはエンタメ志向が行きすぎた面もあり(周囲も求め過ぎた)、言わずと知れた例のオバケ・アルバム発表後、彼自身もオバケ化することで、次第に純粋な音楽志向とはかけ離れた存在になっていく。おそらく一般が認知しているマイケル像はこちらでしょう。僕もその一人でした。
 しかし、『オフ・ザ・ウォール』に関しては、間違いなく本物のポップ・アルバムだと断言できます。ここにはニュー・ソウルの洗練と、ファンク/ディスコの躍動感と、スウィートな歌心がある。ここには、本物のブラック・ミュージックがオーヴァーグラウンド化する直前の、過渡期の音が鳴っている。

 本作を聴き終えたとき、まるで重厚なラブ・ロマンス映画を観終わったときのような、深い感動に包まれるのを感じる。僕は何十回と聴いてますが、その感動の質がいまだ変わることはない。

 いやはや、この時期にあえてマイケル作品を貶すことで、デリケートになったファンを逆撫でする意図もあったんですが(最低)、あわや大絶賛してしまうとは。
 これは『スリラー』も聴き返してみる必要がありそうだ。
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