第1楽章、ひな鳥が羽をバタバタさせて何とか飛び立とうとしても少しも体は軽くならないし、風にも乗れそうもなく戸惑っているような情景を連想した。それにしてはのたうちまわるような苦しい冒頭の雰囲気は過剰すぎる。第2主題が可愛い。それでもめげずに何度でも繰り返し挑戦している。努力しても狙った通りに運ばないジレンマを焦れば焦るほど横滑りする和声で面白く描いている。展開部も再現部も形通りに進むが色彩はぐっと深みを増し、結尾ではどうにか納得できるところまで飛べるようになり安心して曲を閉じる。第2楽章、宗教的な瞑想に浸れそうな暗いけれどとても美しい音楽が展開する。調性的でありながら主和音を避けているために足元が落ち着かない。中間部で書法は変わるが気分の重さは変わらない。再現部で多少軽く流れ始めたような気もするが、音楽自体に分に今しばらくそっとしておいてほしいような陰鬱さが付きまとっている。第3楽章、後ろから迫る恐怖から逃れようと全力疾走するスケルツォ。中間部で第1楽章の第2主題を用いたりして、流れに乗って変わり行く楽想を楽しむには一番良くできている。書法的にもいろいろ試みているが色彩の薬味ぐらいに思っていれば良いだろう。第4楽章、力尽きて前のめりに倒れるようにしてたどり着いた終楽章。伸ばした手一本でかろうじて境界線が離れないように繋ぎとめている。今までのすべてはここに至る伏線だった。音楽的な必然ではない。当時のスクリャービンの心境が光を通さないのだろう。中間部のコラールもきれいだが触れないほど脆い。最後の和音も空虚で勝利感も救いもない。明らかにショパンを意識しているが永久に続くかのような希望の影も差さない重さが耐え難い。《Alexander Scriabin(1872.1.6 – 1915.4.27):Piano sonata no. 1 in F minor, op.6》
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