「あいつ」なら誰か適当な人を想像すれば良いが、aitsiが何を意味するのか何語なのかも一切不明だ。ひとつの和音の変容と言うかF音の百面相と言う趣の曲だ。6分間の間ポツポツと鳴らされるだけで縦方向に変化はあるが旋律的な展開はない。音楽が誕生する前の胎児期の心音のようでもある。まだ楽語を発することもできないが音として生きている喜びが伝わって来る。今では現実には見えなくても拡大画像として命の存在を確かなものとして目の当たりにすることができる。
なるほどこれは音楽として誕生する前のF音の胎内成長の記録なのかもしれない。古代インド音楽の横に展開する旋律を縦に積み上げたとも言われるが、難しく考えることもない。胎児に寄せられた夢と期待を漫然と感じ取れば良さそうだ。「あいつ」は決して乱暴なことばではない。他のことばでは表現できない親しみと信頼があってこそ使える一面がある。《Giacinto Scelsi(1905.1.8 – 1988.8.9):Aitsi》
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