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2018年03月23日21:43

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しみじみする小品 映画「blank 13」

松田コウジ(高橋一生)は、兄のヨシユキ(斎藤工)、母・洋子(神野三鈴)と久しぶりに顔を合わせた。
失踪していた父・松田雅人(リリー・フランキー)の消息が13年ぶりにわかったという。
末期の胃がんで余命いくばくもないが、兄も母も「見舞いには行かない」とかたくなに拒むのだった。

コウジにとっては、キャッチボールの相手をしてくれる優しい面もある父だった。
しかしギャンブル好きで雀荘に入り浸り、小学生のコウジが「父ちゃんが甲子園に連れて行ってくれた時の作文、賞をもらったよ!」と知らせに来ても反応が薄い。
そして借金取りに追われたあげく、「ちょっと煙草を買いに行ってくる」と外に出たまま帰ってこなかった。
その返済のため、洋子は新聞配達と夜の仕事を掛け持ちし、配達中の交通事故でけがを負うと、コウジとヨシユキが代わりに新聞を配ることに。
父にはさんざん苦労をかけられたのだ。

コウジだけが雅人に会いに行く。
すっかりやつれていたが、いまだに借金に追われ、コウジにもらい煙草をする有様。
「オレ、高校野球はずっとラジオで聞いてたんだ。もしかしてお前が出るんじゃないかと思って」。
野球部に入るような余裕などあるはずがなかった。
そんな父にすっかり失望するコウジ。

しかしコウジの恋人・サオリ(松岡茉優)は「もう一度お見舞いに行こうよ」と彼をうながす。
ふたりして病院に行くと、もう父は長くないのがわかった。
そのあとコウジはサオリから、身ごもっていることを告げられる。

雅人の告別式当日。
狭い公民館のようなところで質素なお葬式がおこなわれた。
すぐ隣のお寺では、同姓の「松田さん」の盛大な葬儀が営まれている。
あまりの違いに、コウジたちはうなだれる。

ポツポツとやってきた参列者。
僧侶は、「ではせっかくですから、みなさんおひとりずつお話をー」と声をかける。
宗太郎(佐藤二郎)は、「あ、故人の思い出話ってコトですね!」とひとりでその場を仕切りはじめ、饒舌にしゃべりだす。
「まっちゃんは、困ってる人がいるとお金がないのに貸してあげたりするいい人でした」。
さらに麻雀仲間、競馬仲間、スナックの従業員(伊藤沙莉)、パチンコ店の同僚、住むところがなくて困っていたところ同居させてもらったのだというゲイ(川瀬陽太)、あやしい宗教の勧誘を追っ払ってもらったと号泣する眼帯の男(大水洋介)ー。
彼らが語るのは「お人よしで親身になってくれるまっちゃん」だった。
そして彼の死を心から悲しんでいた。
「まっちゃん、カラオケで歌うのは『つぐない』だったのよ、つぐない、ね」。
ひとりの老人(織本順吉)は、「まっちゃんに見せてあげてた手品」を実演して見せる。
ちぎった紙を袋の中に入れてみると・・・袋の奥から出てきたのは野球のボールだった。
そのボールは、コウジの脳裏に、父とキャッチボールをした遠い日を思い起こさせた。
そして少し体の不自由な男(神戸浩)は、「まっちゃんの見舞いに行ったらね、病室の引き出しの奥から作文を出してきて見せてくれたんだよ」と話を始める。
あの日、コウジが雀荘に持っていったら、ロクに見ずに脇に置いたままにしていた作文のことだ。

自分が書いた作文の文章が、ありありとコウジの胸によみがえる。

洋子はとうとう葬儀にも火葬場にも来なかった。
しかし、喪服のまま、少年野球チームの練習をじっと眺めていた。
愛煙家だった雅人が残したのは、ハイライトと百円ライターだけだった。


この映画、リリー・フランキーと高橋一生が出ている、という知識しかなく、なんとなくふらりと見に行ったのだが、これがなかなか「当たり」の映画でした。
さんざん家族に迷惑かけていた父親には別の面があって、けっこういいところもあったー、と言えばストーリー的にはありきたりのようだけど、コウジの心の揺れ動きが、見る者にさざなみのように広がっていく。
父親が友人たちに慕われていたことを知り、アップになった高橋一生の表情がほんのすこし動いてほほえみがもれる。その一瞬は見事な演技だった。

そして、ひとくせもふたくせもある「雅人の友人たち」のキャラクターたちが悲しくもおかしい。
ほんとうに告別式の場でわちゃわちゃ、てんでに好き勝手なことを言い合っているところを、そのままドキュメンタリーで撮ったみたいな感じで、嘘くさい場面なのに、全然嘘っぽくないのだ。
どうもあのシーンは、本当にアドリブで役者たちにセリフをどんどん言わせていたらしい。

予備知識なしで見に行ったので一番驚いたのがエンドロールの最後の最後の名前を見たとき。
「監督 齊藤工」とクレジットがあったのだ。

え! あの斎藤工が監督だったの!?(俳優名は「斎藤」、監督名は「齊藤」としているらしい)。
全然知らなかったが彼は2012年からショートフィルムを撮っていて、これが長編映画第一作なのだとか。
まったく意外だったが、斎藤工、監督としてもなかなかの出来です。

リリー・フランキーはこういったダメ男、崩れた男にはうってつけの役柄。
ロケ地の少しくすんだ昭和なアパートも、どこか郷愁を誘う。
字幕などで時代は書かれてなかったけど、雅人が吸っていた煙草に、
「日本専売公社」と印字されているのをアップにするところなど、うまい手法だと思う(JTへ民営化されたのは1985年)。
雅人がコウジにバッティングフォームを教える回想シーンに、
「オープンスタンスなら八重樫だ、それなら梨田だ」といったセリフが登場するのも、わたしのようなプロ野球ファンはだいたいの時代がわかるだろう。
そして何より、ほんとの知り合いのおじいちゃんみたいな、自然な織本順吉の演技がピカイチでした。
(3月23日、シネマート心斎橋)
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