<承前>
トークイベントの第2部は、読者からの質問が読み上げられ、それにハン・ガンさんが答える形式。
質問は、イベント視聴申し込みの際に、メールで事前に記入されたものと、オンライン公開中にチャット形式で質問を書き込めるようになっていて、それで投稿されたものがありました。
******************************
ー小説を書いたきっかけと、書き続ける原動力は?
(韓)小説家になりたい、と思ったのは中学3年の時でした。
わたしに何ができるだろう? と思い、そのとき真剣に小説を書きたいと思いました。
小説を書くというのは答えを書く、というものではないです。わたしの中には、答えを見つけられずにいる質問があるので、まだわたしには小説を書く資格があると思います。
ーハン・ガンさんの作品はとても繊細な文章ですが、どのように文体を獲得したのですか?推敲はどのようにしていますか?
(韓)感覚をとても大事に考えています。それを生き生きとしたものとして描写したいと思っています。推敲するときは、自分が気に入るまで、ひたすら推敲します。かなり直し続けるほうなので、編集者の人にはあまりよく思われません(笑)。
ー「虐殺」がテーマですが、どういう精神状態で書いたのですか?
(韓)7年がかりで書いたのですが、途中でやめたり、50頁一気に書いたり、その都度感情や感覚が違っているので、執筆中はこうでした、と規定するのは難しいです。
最後はジョンシムの心で目を覚まし、ジョンシムの心で眠るようになりました。苦痛と愛が同時に燃えたぎっているような気持になりました。
割れたガラスのかけらが炎の中、ひとつに融合していくような、不思議な体験をしました。
ーパレスチナの現状についてどう思われますか?
(韓)不可能と思えることを想像しながら、希望がない、と思うこともあります。戦争は続いていますから。
ー書くことも読むこともできない時期があったと聞いていますが?
(韓)文章と言うより、フィクションを書いたり読んだりができなかったのです。他の文章は読むことが出来、ひたすら待っていた時期でした。
天体物理学の本をよく読んでいました。年を取ったら、天体物理学の本だけ読んで暮らしたい、と思うほどでした。書けないときは朝晩、自転車に乗っていました。
ー日本語に未訳の「風が吹いている池」はどんな内容ですか?
(韓)「菜食主義者」の次に書かれたミステリー小説です。主人公の親友の死が、自殺ではない、ということを証明するために、命がけで明かしていきます。この小説もある意味、愛に関する小説であると言えます。
ー「別れを告げない」に日本の対馬のエピソードが出てきますが、行かれたことがありますか?
(韓)済州島で虐殺があった時期、海流で対馬に遺体が流れ着いた、と資料に出てきたので使わせていただきました。行ったことはないのですが、対馬に、慰霊するお墓が作られていると資料で読みました。
ー日本だと在日の金石範(キム・ソッポム)氏に済州島四・三事件を扱った「火山島」や「鴉の死」がありますが、読んだ事はありますか?
(韓)その作品は読んでいないのですが、四・三事件を描いた韓国の玄基栄(ヒョン・ギヨン)先生の小説を読みました。
ー影響を受けた作家は?
(韓)作家たちは影響を与え合っている存在で、何人か選ぶのはむずかしいですね。
ー先ほどの質問に関連しての質問になりますが・・
作家であるお父様のハン・スンウォン氏の小説にも感銘を受けました。お父様の影響はありますか?・・(お父様のことを語るのは)むずかしいですか?
(韓)むずかしくないですよ(笑)。
父の影響を受けない子どもはいないと思います。
子どもの時に、家にいっぱい本がありました。文学的雰囲気の中で育ったのは幸運だったと思います。
父からの影響は、作品そのものというより、「たゆまず、読んで、書く」という習慣、それが大きいと思います。いつも苦労して書く父の姿を見ていました。
ーそれでも、書くのを選んだのですね。
(韓)さきほども言ったように、中3の頃、強い形で思春期が訪れ、「なぜ生きているのか?」という根源的な思いが沸き、そんな中で文学をやりたいと思ったんです。
ー他者の苦しみを理解することが出来ると考えますか?
(韓)生きている限り、知ろうとする、ということなのだと思います。わたしも50代前半ですが、今でも毎日知ろうとしている、理解しようとしている。
わたしはずっと歩き続ける人間なんだと思います。どこかにたどり着く人間ではなく。
ー記憶に残っている旅は?
(韓)なにかをやり遂げたりより、ゆったり静かに過ごす旅行が好きです。
ー執筆のとき、家に籠っていますか? それともカフェなどで書きますか?
(韓)家で書いています。カフェで書くのは難しいような気がします。
ー最近、韓国語を習い始めました。韓国語で好きな言葉やことわざあれば教えてください。
(韓)韓国語の言葉を、ひとつひとつ吟味してみてはどうでしょうか。ピアノを叩くと音の余韻が広がるように。
また、韓国語で詩を書いてみてはどうでしょうか?自分で知っている単語で詩を書くのもとても美しい体験だと思います。
ー新作について
(韓)まだ進んでなくて・・編集者から電話がかかってくるんじゃないかと、ドキドキしています(笑)。
*************************
質問コーナーも、とてもなごやかに進みました。
「作家であるお父様の影響」についての質問はわたしです(^^;
また対馬について質問したのは、わたしの知人の新聞記者でした。
(オンライン画面のQ&Aがテキストデータで出るので、名前でわかりました)。
すぐれた作家は、紡ぎだされる言葉ひとつひとつに、深い思索と意義があるのだと実感し、文学というものの力を改めて思いまいました。
※画像では最後に、訳者の斎藤真理子さんも登場しました。
(5月14日)
このイベントの前半部の概要です。
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1987627087&owner_id=5348548
ログインしてコメントを確認・投稿する