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2024年05月13日17:20

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「別れを告げない」(韓江/ハン・ガン、斎藤真理子訳)白水社

<出版社の内容紹介より>
作家のキョンハは、虐殺に関する小説を執筆中に、何かを暗示するような悪夢を見るようになる。ドキュメンタリー映画作家だった友人のインソンに相談し、短編映画の制作を約束した。
済州島出身のインソンは10代の頃、毎晩悪夢にうなされる母の姿に憎しみを募らせたが、済州島4・3事件を生き延びた事実を母から聞き、憎しみは消えていった。
後にインソンは島を出て働くが、認知症が進む母の介護のため島に戻り、看病の末に看取った。キョンハと映画制作の約束をしたのは葬儀の時だ。
それから4年が過ぎても制作は進まず、私生活では家族や職を失い、遺書も書いていたキョンハのもとへ、インソンから「すぐ来て」とメールが届く。病院で激痛に耐えて治療を受けていたインソンはキョンハに、済州島の家に行って鳥を助けてと頼む。
大雪の中、辿りついた家に幻のように現れたインソン。キョンハは彼女が4年間ここで何をしていたかを知る。インソンの母が命ある限り追い求めた真実への情熱も……
いま生きる力を取り戻そうとする女性同士が、歴史に埋もれた人々の激烈な記憶と痛みを受け止め、未来へつなぐ再生の物語。
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沖縄に住む編集者の友人がイチオシしていた小説。
訳は、韓国文学の翻訳で大活躍している斎藤真理子さんだ。
さらに作者・ハン・ガン氏の分身のような、作中に登場するキョンハが書いた「虐殺に関する小説」は、光州事件をテーマにした「少年が来る」だと思われる(この小説を、わたしの友人である井手俊作氏が翻訳している)。

実は本書を数十ぺージ読んだところで、キョンハ同様、わたしも悪夢を見てうなされてしまった。真っ暗な場所で、道が分からずさまよう夢。

本作の主題は、韓国現代史史上、最大の悲劇と言われる、済州島の「四・三事件」である。深い追悼と、この歴史を埋もれさせないようにと闘う人々への敬意に満ちている。

済州島のインソンの家でキョンハが見る幻影は、過去と現在を行きつ戻りつし、インソンのかかえた悲しみを照射する。
そして、悲劇の歴史を浮かび上がらせつつ、キョンハとインソンの深い友情が、ひとすじの光のように、この物語を貫いているのを感じた。

「見えない雪片が私たちの間に浮かんでいるようだ。結束してできた雪片の枝の間に、私たちが飲み込んだ言葉たちが封印されているようだ。」(221頁)

原文では済州島方言が随所に登場するので、訳者の斎藤氏も、日本語訳には苦労したようで、結果、沖縄方言を使い、「ソウル標準語」とは違う独特の雰囲気を出している。
また、あえて「人(韓国語では「サラム」)に「さるむ」、「明け方(韓国語ではセビョク)」に「せべく」とひらがなでルビを振ることにより、発音の、リアルな差異を表わしている。

ハン・ガン氏は本書を「究極の愛の小説」とあとがきで述べている。
告発、真相究明、歴史発掘、といった困難を乗り越えた、人類愛に至る小説なのだと思う。
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