映画「ロープ　戦場の生命線」

１９９５年、紛争地のバルカン半島、けわしい山岳地帯の、とある村。

生活用水の頼みの綱である井戸に、死体が投げ込まれてしまった。
このままだと死体は腐敗し、水が飲めなくなる。

国際支援組織「国境なき水と衛生管理団」のメンバーは死体の引き上げ作業中。
ところが結んだロープが途中で切れて、死体は再び井戸の中へ。

かくしてメンバーたちは引上げ用のロープを探しに行くことに。

プエルトリコ生まれのマンブルゥ（ベニチオ・デル・トロ）、正義感いっぱいのソフィー（メラニー・ティアリー）、先輩風を吹かせるビー（ティム・ロビンス）、ゴヨ（セルジ・ロペス）、地元の通訳（フェジャ・ストゥカン）、そしてマンブルゥの元カノらしい、ロシア人のカティヤ（オルガ・キュリレンコ）。

しかしすぐに見つかると思ったロープは容易に手に入らない。
粗末な道具店を見つけて入ると、店主はロープは首を吊るのに使われるから縁起が悪いのだと、わけのわからない理由で売ってくれない。

運転を誤ったら崖からまっさかさまの、峻険な悪路、地雷のトラップ。

マンブルゥは車で移動中、あやうく少年にぶつかりそうになる。
その少年を助けて、しばらく一緒にいることになったのだが、例の井戸の周りに給水車が乗りつけ、男たちが水を売っているのにでくわした。
「あいつらが井戸に死体を投げ込んだんだ」と少年。

憤懣やるかたないが、ロープを探さねば。
旗を家の前に掲げている男に頼んでみる。旗の上げ下げにロープが使われているからだ。
しかし男は頑として旗を出しておかないといけないから、とゆずらない。

少年が教えてくれた家につながれた犬がいて、そのロープを使えば、と言う。
しかしあまりに獰猛な犬なので、つかまえてはずすことができない。

ようやく見つけたロープ。
それは内戦でこの地の「敵」が、縛り首にした住民の首にかかっていたものだった。

マンブルゥは苦労の末、井戸に降りてゆき、なんとか死体を結わえることができた。あとは引き上げるだけだ。
ロープは車につながれ、ソフィーの運転で引っ張ってもらっていた最中、突然動かなくなる。

なんと国連の兵士から、作業中止が告げられたのだ。
規則を盾に取り、「死体に触れてはいけないことになっていますから」と、メンバーたちがいくら井戸の洗浄が火急を要するのだ、と訴えても取り合わない。

いままだの苦労はなんだったのだー！
死体はみたび、井戸の底へ沈んだ。


見終わって思ったのは
「こういうテーマで笑えて、かつ義憤を感じる娯楽映画を作ってしまうなんて、スゴイ！」。
紛争地の国際援助といえばヒューマンあふれる内容とか、ドキュメントタッチで悲惨さを映し出すとか、が常道だろうが、それをこんな映画にしてしまえるとは、考えもつかなかった。

ロープをさがして右往左往、ここまでことごとく失敗したら、もうコメディである。
しかもしゃくし定規な国連の介入でおじゃん。

戦闘シーンはまったく出てこないのに、戦争の不条理や悲劇はそこかしこに滲み出している。
脚本が秀逸だな、と思う。
映画に出てくる少年は、いじめっ子グループにサッカーボールを取り上げられ、マンブルゥがようやく彼の実家のガレージからボールを見つけ出してあげても、少年はその不良たちにお金でボールを売ってしまう。
それは、戦争で弱者が理不尽に虐げられたり、弱者が生き延びるためにどんな手段を使ってでもさまざまな行動をとることと、フラクタルになっていることを見せてくれる。

軽快な音楽が物語を盛り立てる一方、ラストシーンに流れる「花はどこに行った」で、見る者は、戦争で生活が破壊され続ける世界の悲しみを感じずにはいられない。

主演のベニチオ・デル・トロがまたもやいい味を出している。
正義感に燃えて国際援助をやってる、というよりも、ああ、なんてこったい！　やってらんねえよ！　というヤレヤレ感いっぱいの表情が実にいいのだ。
２００１年公開の「トラフィック」を見てから、わたしは彼がけっこう大好き（＾＾）。
「プレッジ」の知的障害者、「２１グラム」の苦悩する男、「チェ　２８歳の革命」のゲバラ役などどれも芸達者だ。

映画のラストシーン、紛争地では大雨に見舞われる。
国際援助メンバーたちの次なるミッションは、難民たちの住宅のトイレの改修。
排泄物で悲惨な状況になっているのは火を見るよりも明らかだ。
それでも彼らは目的地に向かう。
そして、件の井戸では、奇跡のような光景が繰り広げられていた。
（３月２日、なんばパークスシネマ）