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2016年10月10日09:09

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「谷崎潤一郎全集第16巻」を読んで



照る日曇る日第900回


この巻では「武州公秘話」、「倚松庵随筆」、「青春物語」の3篇を中心に編まれているが、やはり未完に終わった「武州公秘話」の被虐趣味の果てしもない暗さと深さに驚かされる。

鼻を削がれた武者の女首になって、美女の手や指や冷酷な視線に弄ばれたいとはいったいどういう変態性欲であることか。

されどそういう目に遭わされたり、実際にそういう目に遭ったと想像するだけで興奮するような心身の機制は、この小説に生々しく描かれているように確かに存在するのだろうが、谷崎君、さすがの私もそこまではついて行けないのが、残念であるんで、あるんで、あるん。

「倚松庵随筆」の「佐藤春夫に与へて過去半生を語る書」では、谷崎が千代夫人を佐藤選手に譲るに至った経緯を執拗に語って、読者を辟易させる。作家とはなんと因業な商売であることよ。

「青春物語」では、若き日の著者の交友と豪遊の軌跡が赤裸々に語られているので読みものとして面白いだけではなく、昭和初期の文壇の様子がよく分かる。当時は自然主義派の勢いが猛烈で、鴎外漱石などを除く非自然派は逼塞を余儀なくされていたのであるなあ。


   アーノルド・パーマーが原宿に植えし桜の木今いずこ 蝶人



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