mixiユーザー(id:5348548)

2013年09月29日22:50

105 view

「あまちゃん」が終わってしまった(涙)

きのうはNHKの朝のドラマ「あまちゃん」が最終回。
放映終了を惜しむ声、続編を望む声、番組についての賛辞などネット上にあふれていたようだ。
視聴者がこれだけ熱く語って、そこから派生してネット上に(登場人物のさまざまなシーンをイラスト化した「あま絵」のような)新たな現象が起きたり、いわばこれほど「盛り上がる」テレビドラマというのもまれではないだろうか。

わたしは実のところ「TVドラマ」というものをほとんど見ないので、他のドラマと比較はできないけど、やはりよく脚本も練られ、視聴者も飽きさせず、続きがいつも待ち遠しくて、役者さんたちも魅力的、ほんとに楽しませてもらった。ある意味「フィクションの力」というものに感動すら覚えた。

どうしてここまで「あまちゃん」が視聴者を惹き付けたのか?
ネットでも山ほど分析があがっているので、いまさら書くのも気が引けるが、わたしが感じたことを挙げてみると、

(1)宮藤官九郎の脚本に埋め込まれたネタ
クドカン作品って「木更津キャッツアイ」をちらっと見たぐらいのわたし。いろんなネタが込められてて、それを探すのが面白い、とは聞いていたけど、あるわあるわ、過去の自作から他のドラマ・映画・ヒットソングのパロディがそこかしこに。ネットでもネタ元さがしが話題になったが、ネタ元がわからなくてもさほどおいてきぼり感もない。花巻さんも「わかるヤツだけわかればいい」と言ってるし(フレディ・マーキュリーのコスプレはキョーレツでしたね)。
しかし、80年代のサブカルがメインに物語にちりばめられていたため、40代〜50代の視聴者の「懐かしい」感をこれでもかとひきおこしたと思う。
クドカンは1970年生まれなので、わたしの世代にとっての「アイドル」がややズレてはいるが、それでもかつてのアイドル女性ふたり、小泉今日子と薬師丸ひろ子、ふたりならぶシーンには感慨を覚えた。このふたりを引っ張り出したことでぐっと80年代が引き寄せられた気がする。

(2)ほどよいドライブ感、匙加減
上記のネタでギャグを出し、笑いをとる一方、「人情モノ」の側面が。夏ばっぱ、春子親子の長年にわたる確執の和解、春子と「太巻氏」の影武者をめぐる和解が物語の柱になっている。
GMTメンバーのいたわりあいとか、毒舌家でキモいオタクのヒビキ一郎が、最後の最後に正宗に向けた優しさとか(ヒビキっていいヤツだったんだ・・)。
笑わせてそして泣かせる、この手法は定番だけど、それをきっちりと埋め込むのはむずかしいと思う。
9月に入ってからの「復興編」では震災が描かれた。
直接、当時の映像は流さないものの、ジオラマで街が津波に襲われる様子を表現する手法には、なるほど、と唸らされた。
まだ2年半しかたっていない震災を描くのは難しかったと思う。つきつめれば重すぎる、しかし、軽いノリやギャグを織り込むと不謹慎だとそしられる。
クドカンの脚本はそのバランスが実に絶妙だ。
笑いとシリアスのさじ加減を非常にうまく心得て物語を堅固にしている。

(3)物語のテーマの広がり
ドラマのネタ元さがしにもつながるけれど、「影武者からの解放」がひとつのテーマで貫いていた。未熟な海女のアキをサポートするために安部ちゃんが彼女の「影武者」となってウニを獲る。
春子は鈴鹿ひろ美の影武者として歌を歌う。
そしてアキは影武者なしでも海女としてひとりでウニを獲れるようになり、春子は過去のいきいさつをアキに打ち明け、紆余曲折を経て、太巻と再会、鈴鹿とも会って、わだかまりを解きほぐす(そのあいだに、アキが小野寺の吹き替えとして、親子二代の影武者にされそうになる場面もあったが)。
ふたつの「影武者」問題をはさみながら、物語が劇的にすすんでいく。
さらに、解決したかに見えた「影武者問題」で、いまだ心に葛藤を抱えていた鈴鹿ひろ美が、最後の最後で美しい歌声を聴かせる、まさかのどんでん返し。
同時に、長らく「歌手」として一線から退いていたキョンキョンと薬師丸ひろ子をふたたびシンガーとして表舞台に出すことになった。かつてのファンにとっては、うれしい誤算だったのではないだろうか。

(4)キャラクターの多様性
北三陸編と東京編、主要な登場人物だけでも40人近くいるという。
それぞれがいわば「キャラが立って」いて、ときとして誰が主人公かわからなくなるほどの濃密さ。
そして演じる役者さんたちも魅力的だ。
夏ばっぱの宮本信子がなんといってもうまいし、海女さんにクセ者ぞろいの女優陣をそろえたのもよかった。
主人公の能年玲奈は、同性のわたしから見ても「この子、目がキラキラしててホントに可愛い・・」と思ってしまうほどで、まるで孫娘を愛でるような心境で毎日見ていた(笑)。
マスター甲斐さんの松尾スズキとか、脇にこれでもかと個性的な配役で楽しませてくれたし、松田龍平演じる「ミズタク」は、なんともいえないすっとぼけた味と、アキに恋愛感情に近いビミョーな心情を隠せない30男の純情さを見せてくれて、わたしも「ミズタク萌え」してました(わはは)。
松田龍平は「まほろ駅前便利軒」の行天役に次ぐハマリ役かもしれない。
ついでに言うなら、どこかで「アキちゃんに告白するシーン」が見たかったなあ。

あと、塩見三省とかでんでんとか吹越満とかピエール瀧とか他の作品では「コワモテ」の役のインパクトの強い俳優さんを意図的にか、なごみ役にしちゃっているのが面白い。
塩見三省は、わたし行定勲監督の「GO」で、朝鮮学校のおっかない教師役やってたのがすごく印象強いんだけど、「コハクのベンさん」はまるで別人です。

(5)印象的なセリフの数々
ドラマではさまざまな名セリフが聞かれた。通り一遍ではない心に残るセリフが多かったことも、多くの視聴者の心を揺さぶったのではないか。
思い出してもミズタクの「世の中を動かしているのは、2番手の子じゃないかと思うんだ。2番目の子が一番になろうとして頑張っていくんじゃないか」、鈴鹿ひろ美の「向いてないけど、続けるっていうのもひとつの才能よ」、アキの(今は大事な時なんだから・・と言われたことに対して)「生きてる限り、大事じゃねえ時なんてないべ」、マスター甲斐の「悪いヤツほど悪いようにはしないよ、って言うんだよね」等々、ほかにもまだまだあるなあ。

(6)効果的な方言
少し前「つぶやき」でも書いたけど、「あまちゃん」では「もはや東北弁はダサくもカッコ悪くもないんだ!」ということを認識させたことも功績大だったのでは。まずヒロインは東京育ちなににすぐに訛ってしまう。
アキは「方言のほうがじぶんの気持ちを素直に表現できる」と気づいたからだ。
夏ばっぱをはじめとする、北三陸の人々のセリフは、方言で語られることによって、温かみやリアリティもさらに増すし、ドタバタが繰り広げられるドラマのウソくささが鼻につかなくなっている。
夏ばっぱの「おがまいねぐ」って、わたしは標準語の「構わなくていいんですよ」と思っていたらそうではなくて「大丈夫だ」という意味。
だから震災後アキに「お構いねぐ」という一言だけのメールがとどいたんだな、とあとできづきました。きゃんちゃんの「なんくるないさぁ」みたいなニュアンスかな。

(7)アキとユイの友情
「愛」を描くドラマは出会い、結婚、愛憎、別れなどやたらとドラマチックだ。
だが「友情」はどこか愛以上に口はばったい。
そして小説でもドラマや映画えも「友情」を描くほうがむずかしいのではないかと思う。
「あまちゃん」はそれに成功している稀有な例だ。
アキとユイのほどよい距離感、べったりではないけれどちゃんと相手を慮る心情、ふたりでいるとひとりのときより明らかに力を発揮する相乗効果、それが随所に織り込まれていた。
上京がかなわず、やさぐれたユイちゃんの噂を聞き、種市先輩がアキに「北三陸へ帰ってユイに会いに行かなくていいのか」と尋ねると「ユイちゃんはそういう姿をホントは見られたくないんだと思う。だからあえて今は行かない」とアキが答えるあたりとかは、ほほーと考えさせられたほどだ。

(8)ドラマのメッセージ
震災をドラマの中で描くとなると記憶が生々しいだけに描き方はクリエーターならば悩むだろう。それをドラマの中でこういう形で昇華している手法はさすがである。
夏ばっぱが太巻きに「金持ちはどんどん金出せ。そしたらおらたちも元気になる」というアドバイス?は、ズバッとしていて小気味良かった。
絆だのなんだの言われるよりも復興するにはまずはお金なのだ。
あのセリフをそこに入れることで、復興がすすまない現状の一端をあらわしていたと思う。
終盤、アキのセリフがこのドラマを貫くメイン・テーマだった気がする。
「自分がやれることをいま、一生懸命がんばる」。
ラストシーンは北鉄がつながっていくことが復興につながっていく、暗いトンネルの向こうには自分たちの未来が待っている、というメッセージに思えた。だからアキとユイがトンネルの中を元気に走って行くシーンを見ただけで涙が出てきた。

ほんとうに不思議だ。
かつて桐野夏生の「光源」という、映画製作にとりつかれた人間を描いた小説を読んだ時、「映像が動くだけなのに、なぜこんなに感動するのだろう」というセリフがあった。「あまちゃん」のラストシーンを見ながら、その言葉を久しぶりに思い出していた。


まだまだ書きたいことは山ほどあるんですが、もうまとまらないのでこのへんで。
やっぱり続編つくってほしいですね。
6 6

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2013年09月>
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930