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2024年01月20日10:20

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「八月の御所グラウンド」万城目学(文藝春秋)

17日に直木賞受賞が決まったばかりの本作。万城目さんの最新作で、あらすじを聞いて、これは絶対自分向けの物語だな、と思い、翌日、博多駅の丸善まで行って購入。

京大生と思われる主人公の「朽木」は、彼女に振られ、無為な夏休みを、地獄の釜が開いたような、炎暑の京都で過ごしていた。
そこへ、友人で4回生の多聞が「野球やらないか」と誘いに来る。
多聞は大企業の内定をもらったものの、単位が足らず、卒業が危うい。
すると研究室の教授から、卒業との交換条件に「代々続いている草野球大会の『たまひで杯』で優勝する」ことを出されたのだ。
多聞はバイト先の祇園のクラブの従業員に声掛けしたが、メンバーが足りない。
猛暑の京都なので、試合は早朝6時からだ。
朽木はもう何年も野球なんてやったことがないし、早起きは苦手なものの、行きがかりから、「たまひで杯」に参加することに。
場所はなんと、京都御所にあるグラウンドだ。

第一戦はコールドで大勝したものの、中一日の第二戦は、メンバー欠場により、このままだと不戦敗になりそうだった。
ところが朽木のゼミの先輩の中国人女子留学生・シャオと、彼女が、たまたまグラウンドに来て野球の様子を眺めていた30歳ぐらいの男性に声をかけ、メンバーがそろう。そして接戦の末勝利。

シャオは、大学で日本のプロ野球について研究していた。
なんでも、小学生の頃北京五輪が開催され、学校からスタジアムに野球観戦に行かされたものの、野球と言う競技を見るのは初めてでさっぱりわからない。その試合はたまたま日本戦だった。そして観客の日本人が「放り込んだれ!」と絶叫しながら熱く応援する姿に、インパクトを受けたのだという。

第三戦の朝、朽木たちのチームは6人しかそろわず、またも不戦敗の危機。
ところが、第二戦のとき飛び入り参加した男性が、働いている工場の後輩だという、若い男性ふたりを連れてきているではないか。
話を聞くと、後輩は、同じ京大の学生のようだ。これで9人だ。

さいしょに飛び入り参加の男性は、爪が割れた先発投手のリリーフピッチャーを務め、見事なピッチングで、甲子園経験者もいるチームをねじ伏せるのだった。

ところが、シャオは朽木を呼び出し、奇妙なことを言いだす。
最初にメンバーに加わり、リリーフピッチャーをやってくれた男性が、かつて日本プロ野球で活躍した、「レジェンド」の選手に酷似してる、というのだ。
そしてタブレット端末に呼び出されたその画像を見て、朽木も息を呑む。
ではなぜ、彼らは、八月の御所グラウンドに現れたのか・・?


万城目学氏らしい、京都を舞台にした青春ファンタジー。
今回は、京大生だけでなく、「上の世代」との結びつきも舞台装置となり、まるで「フィールド・オブ・ドリームス」よろしく、伝説の名選手が、御所グラウンドにやってくる。
その存在に気付くのが、日本に留学するまで、野球になじみのなかった中国人留学生、という設定も物語を重層的にしている。

これって、場所が京都だからこその物語なんだろうな。
京都という古い街は、不可思議なことが起こってもなんだか納得できそうな雰囲気がある。
さらに主人公が京大生(作者の万城目氏も京大法学部出身)。
関西にお住いのかただったらおわかりだろうが、京都大学の卒業式での、はっちゃけぶりは、東大だったら、まず考えられない。東大生が主人公ならただの秀才くんで終わりそうだ。そういった大学カラーゆえのキャラクターである。

わたしも昨春まで長らく関西住まいで、いっときは月に1回ぐらいのペースで京都に遊びに行っていた。だもんで、小説に出てくる通りや町の地名がだいたいあのへんかな〜とわかるところが、なおさらこの小説に親近感をいだかせるのだ。
それにしても、京都御所に、草野球できるようなグラウンドがあるなんて、知りませんでした。

小説のラストは「五山の送り火」。やはり夏の京都はこれでしょう(関西では送り火の中継をローカル局が放映する)。
そして、ああ、これは反戦小説でもあるのだな、と思わせるし、前評判通り、しみじみと泣けてしまう。
京都住まいのかた、野球ファンのかたには絶対おすすめです。

また、もう1篇収録されている「十二月の都大路上下ル(カケル)」は、高校女子駅伝がテーマで、これも万城目流マジック・リアリズムで、時空を超えての不思議な出会いの話。

※京都大学総長による、万城目学さんへの祝辞
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news/2024-01-18-0
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