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2023年11月24日11:00

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演劇『たわごと』/とよはし芸術劇場PLAT

名古屋フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会のあと、錦の寿司屋で一杯呑み、程近いホテルMで1泊。
翌11/19(日)は豊橋でJR在来線を降り、昼食後、穂の国とよはし芸術劇場PLATで演劇を観た。

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同劇場芸術監督の桑原裕子作・演出の『たわごと』は、開館10周年を記念した最新プロダクトである。
桑原演出の演劇はこれが5本目の鑑賞になる。
『荒れ野』『ひとよ』『或る、ノライヌ』『ロビー・ヒーロー』、前の3作は共に桑原が書いた。『ロビー・ヒーロー』はケネス・ロナーガン(1962- /米)作。

下は昨年5月に観た『ロビー・ヒーロー』のレポート。参考迄。
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1982438230&owner_id=3341406

今回の『たわごと』は豊橋で4回公演したあと、11/23、ロームシアター京都、11/26、岡山芸術劇場、12/8〜17、東京芸術劇場に巡回する。

当シアターでは、今回、聴覚・視覚障害の方も愉しめる対応をした。素晴らしい事だ。

演劇の場は海岸を見下ろす崖の際に建てられた古い洋館、その広い応接間1ヶ所のみ。
疾うに引退した老小説家 越間亭杔(こしまていたく)がここに住んでいるのだが、病のせいでもう長くないと自覚し、疎遠になっている息子達その他を呼び寄せた。
やってきたのは長男の需(もとむ/渡辺いっけい)とその妻菜祇(なぎ/田中美里)、次男の心也(しんや/渋川清彦)、そして元秘書で愛人でもあった解子(ときこ/松金よね子)。頼まれて彼等に連絡したのは住み込み医者のテオ(谷恭輔)と、看護士の黒江(くろえ/松岡依都美)。
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彼等の尋常ならざる名前からすると、象徴主義または哲学劇かとも思う。
物語の中心に引力を持って存在する筈の亭杔は、応接の隣の部屋でベッドに横たわっているらしい。用事がある時はベルを鳴らす。2時間の劇を通して、一度も彼は顔を見せない。
中心人物が、いるのに登場しない劇は、スリラーかサスペンスかと思わせもする。

応接室の奥には大きなガラス窓があって、その向こうは崖らしい。
自殺の名所等と噂されているせいで、崖縁には手仕事で杭が打たれロープが巡らされている。
時折、強い風が吹き、波の音も聞こえる。

疎遠であったのは亭杔と息子等だけでなく、呼ばれた兄と弟、元秘書も久し振りの出会いとなる。
その訳は、彼等の会話からおいおい分かる。
次男の心也は長く行方知れずで、長男の需は連絡先さえ知らなかった。彼に連絡をとったのは元秘書の解子だったようだ。
需は、解子が亭杔の財産を横領して出て行ったと思い込んでいて、今回彼女もここに呼び寄せられた事に激しく違和感を感じ、彼女を罵る。自分が知らなかった弟の連絡先を彼女が知っていた事にも腹が立つ。

ガラス窓の向こうをよろよろ歩いて心也がようやく現れる。酷く酔っぱらっているようで足許が覚束ない。そうでもしなければここへ帰ってくる事はできなかったのだろう。
心也のナリを見て需は次々詰問する、オマエは一体何をしているのか?何処に住んでいるのか?何故連絡をよこさないのか?
心也は需の目を見ず、横を向いて答えない。

菜祇が間に入っていっときを収める。
菜祇は心也と意味ありげな視線を交わす。
あとから分かるのだが、2人は過去に何らかの関係があったらしく、応接間に2人きりになると、ソファに密着して座り親密なやりとりをする。需は2人の関係を知っていたのかどうか。
菜祇は心也に、長く不妊治療をしてきた事、その懊悩を打ち明ける。需の協力がなかなか得られないらしく、涙ぐむ。
風に当たってくると言って玄関から出て行った菜祇、大回りしてガラス窓の向こうに姿を見せる。崖縁で強風に煽られ、危うく落ちそうになる。飛び出ていく心也。

オランダ系混血の若い医者テオ、実はスナックのママとしても働いている看護士黒江。
隣室からベルの音がすると、2人は走っていく。言葉を発する事ができない亭杔とは、以前よりベルの鳴らし方で要件を決めているらしい。
ところが、長男の需が部屋に入る事は許されない。病状のせいか、亭杔に何らかの思いがあるのか。需の心は鬱屈として穏やかでない。
テオと黒江、2人と亭杔の関係も次第に見えてくるが、ここでは端折らせてもらう。

メンバーが揃ったところで、解子が場を仕切り、ここに皆を呼んだ訳を話しだす。死が遠くないと覚った亭杔が解子の協力を得て書いた遺書が存在する事、小説家のそれらしく大変に長いものだが読み上げるのでよく聴いて欲しい、これには遺産分割の件も含まれる、と。
需は聞く前から解子に食ってかかる、アンタにも遺産分割があるのか?アンタに何の権限があるのか?父をたらしこんだのだろう、云々。
だが、遺産相続迄ようやく読み終えた時には、需も心也も納得の表情となっていた。
しかし、父亭杔の遺言で最も重要なポイントはそこではなかった。

解子は亭杔が密かに書き続けていた遺作とも言うべき小説の原稿を皆の前に引きずりだした。それは膨大なものだった。
最期の亭杔の希望は、まず生前葬儀を行う事、式は需が執り行う事、弔辞は心也が作成する事、その弔辞は亭杔が自身の目で確認する事、遺作小説は最後にその弔辞を掲載して完成する事、その上で世に出す、との事であった。
皆はそれが意味するところを理解できず、とまどった。死を目前にした病人の「たわごと」としか思えなかった。

考えあぐねた需は主張した、オレが式を執り行うのはいい、それならば、文才のないオレには重荷だが、弔辞もオレが書いて読むべきだ、と。
ここで、ようやく心也がたどたどしく本音を語り始める、それは彼が出奔した理由にもつながるらしかった。
手短かに書けば、心也は幼い時から文章を書くのが好きだった。その才能は父の血を引くのではないかと周囲から言われた。
学生時代に心也は本格的な小説を書き始めた。父も愉しみにその様子を見守っていた。
心血を注いだ小説はやっと完成に至り、とある文芸誌にそれを渡すという段になって父亭杔はその原稿を読んだ。そして、それを渡す事を許さなかった。
その後、父との間でどんな会話がなされたかは分からない。が、心也はショックを覚え、家を出た。それきり連絡は途絶えた。

言葉と内なる真実、言葉の多面性、言葉は一体信ずるに足るか?
言葉の呪縛、その中で心也は苦しみ生きてきた。
亭杔はこの後に及び何を考えて息子に弔辞を書かせようとするのか?それで小説が完成するとはどういう事か?

需は弟が弔辞を書く事に賛成し、応援を申し出た。

テオと黒江の大声が壁越しに聞こえ、隣室が突然慌ただしくなった。
需は初めて扉を開け、父の部屋に飛び込んでいった。

言葉は人と人の間に融和をもたらすのか?
最後の段は、ここで書くのはやめにしておく。


 作・演出 桑原裕子
 美術 田中敏恵
 照明 相良浩司
 衣裳 石川俊一
 舞台監督 金安凌平

 出演 渡辺いっけい,渋川清彦,田中美里,松金よね子,谷恭輔,松岡依都美
 

〈付記〉
席は1階C列(前から3列目)15番。
 

5日続けて日記にしたためたが、これで、名古屋,豊橋1泊の小旅行のレポートを終える事とします。
お読み頂きまして、ありがとうございました。
 
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