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2015年09月11日08:54

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☆洋ちゃんの読観聴 No. 1078

☆洋ちゃんの読観聴 No. 1078

深緑野分(ふかみどり・のわき) 
「戦場のコックたち」

1983年生まれの若い作家の2冊目の著作。 
1冊目は短編集で、本作は初の長編となる。

僕は処女作「オーブランの少女」の表題作だけ
読んだことがある。第二次世界大戦時に欧州の
ある洋館に集められた少女たち。最初はオカルト
っぽい雰囲気なのだが、いろいろな謎が少しずつ
明かされてゆく。やがてユダヤ人迫害のナチスへと
話が繋がってゆくのだが、この若い作者が生まれる
はるか昔の戦争をモチーフにしたところに、僕は
注目した。

今度の長編も第二次世界大戦が舞台だ。主人公は
アメリカ人の若い軍人ティモシー・コール。彼の任務は
コックなのだが、もちろん戦場では銃を持ち戦いに
参加する。

5章建てになっており、各賞ごとに謎解きミステリーの
仕掛けがある。回収されるはずのパラシュートを集める
兵士、基地で消えた大量の粉末卵、戦地での現地の
夫婦の怪死など、不思議な事件に遭遇し、主人公は
仲間と共に事件の謎を解く。

・・・と書くと、なにやら楽しそうなミステリーのようだが、
実はそんなことはない。戦闘場面の描写は生々しいし、
仲間も亡くなってゆく。戦闘地域における一般市民の
悲惨な様子もきっちりと書かれている。

いま日本では安保法制を巡り国会の内外で議論が
白熱しているが、いわゆる後方支援ないし兵站業務の
仕事のありさまも実に丁寧に描かれている。

現在の戦争ではなく70年前の連合軍vsドイツ・ナチスの
戦争なのだが、戦争は戦争だ。イラクやシリアで行なわれて
いる戦争も変わりはないはずだ。

兵士たちは、身体を負傷するだけでなく、次第に心も
疲弊していく、主人公も含めて・・・。

ぬくぬくと生きてきた主人公ら20歳前後の若者たちが
戦争という過酷な状況にほおりこまれ、そこで考え悩む。
それどころか生死をかけて行動もする。だから、
この小説は、ミステリーであり、戦争ものであり、そして
青春ものでもある。

実にみずみずしい。そして全体に貫かれるリリシズム。
ラストの余韻。

素晴らしい傑作だ。

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