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2023年06月03日13:00

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東京へ～東京ステーションギャラリー「大阪の日本画」②

(続き)

第二章の主役は菅楯彦(すがたてひこ/1878-1963)である。
大正の終わり頃からは、近代化の波で失われつつある大阪風俗を惜しみ、下町風景と人々を描く「浪速風俗画」を数多く手がけた。

《阪都四つ橋》(1946)

本展チラシの中央にこの作品の部分が印刷されている。
戦後すぐに描いたこの絵には、江戸時代の四ツ橋辺りの賑わいが描かれている。
長堀川と西横堀川が十字に交差した所にはロの字に橋が架けられていた。
1960～70年代に川の埋め立てと橋の撤去が決まり、楯彦はそれを惜しんで描いた。
谷﨑潤一郎は楯彦の古典に対する素養、画風を愛し、大阪船場を舞台にした『細雪』の装丁を彼に依頼する等、生涯に亘り親交を重ねた。

楯彦の女弟子に生田花朝(1889-1978)がいる。
《天神祭》(1935頃)

これも画像データがないため、本展チラシをアップしておく。
今も7/25に行われている大阪天満宮の神事「天神祭」(日本三大祭の１つ)の「船渡御(ふなとぎょ)」を、花朝は繰り返し描いた。
当世の祭として描く事も考えたが、洋服と祭に彼女は違和感を持ち、江戸末期風俗を研究して制作に及んだ。
大川(旧淀川)の美しい青色の川面を行く神輿舟、篝火を焚いた船、小太鼓の囃子船、見物客の屋形船等、幾艘もの船が、夜風に如何にも涼し気である。

近代以前から日本画を買う人はどんな人だったか？
大雑把に京都では貴族や公家、江戸では武家、大阪では商人と仕分けする事ができる。
明治以降もその流れは続き、京都では専ら格調高いもの、江戸ではお硬いもの、大阪では日常目線で描かれたものが買われていく事になる。大阪商人達は作家に男女を問わなかった。
商家の旦那衆はお気に入りの画家と個人的なつながりを持ち、パトロンとなって自分の欲しい画風を画家に求めた。
大阪商人(含む料亭)が求めたのはさりげなく床の間映えのする瀟洒な作品(いわゆる「床の間芸術」)だった。そこに描かれるのは、大阪の文化･風俗･自然･季節に通ずるものである。(*)
パトロンは気に入ったものを、気に入った画家に繰り返し書かせた。
パトロンに抱えられた大阪の日本画家達は経済的な安定を得、公募展で賞を獲り名前を売る事や、革新的画風を開拓する事は必要なくなった。
他人と競う事は格好悪いという大阪人気質もあり、結果的に大阪の日本画家達は展覧会から距離を置く事になる。画家はパトロンとの関係に終始し、外の世界に向けて自己主張する事がなくなった。
東京芸大が1887(明治20)年にできたのに対し、大阪芸大は、開校が1945(昭和20)年と随分遅くなった。これも同じところに根がある。画家が学ぶべきは画塾の師であり、芸術大学は必要ないのではないかという風潮があった。
こうした事が繰り返され、大阪の日本画はローカルに留まり、全国の表舞台から忘れられていくようになった。

(*)大阪好みはあっさり,すっきりで、決してコテコテではない。コテコテはずっと後年になってからの事である。

第三～五章はまさに「床の間芸術」の作品群である。
ここではレポートを省略し、第六章に進む。

近代化が進むと、大阪の日本画家の中にも、変化を求め、革新的な絵を描こうとする若者が現れてきた。彼等は公募展に出品するようになる。
そうした女性画家が第六章の主役達である。
第一章で、北野恒富の下には多くの門下生が集まり、女性も多かったと書いた。
大阪では富裕層を中心に子女に教養の一つとして日本画を習わせる習慣があり、絵を学ぶ女性は多かった。

中村貞以や島成園は第一章にも登場したが、新しい表現を求め、革新的な女性画家達を牽引していくようになる。床の間サイズでなく大型作品にも挑戦する。

島成園については過去に何度もレポートしているが、その中で１つだけリンクを貼付しておく。
2010年1/6「小川知子編･著『島成園と浪速の女性画家』」
　https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1382760508&owner_id=3341406

《祭のよそおい》(1913)

祭の日の4人の女の子が描かれている。
左端の2人、その右隣り、そしてそこに入っていけない右端の女の子、彼女達の衣裳や履物に見られる大きな格差。
左端の2人は、祭の日に紋付幔幕を吊るす商家の娘であろう。高価そうな着物と履物,リボンを身に着けて床几に座り、足をぶらぶらさせている。
大阪では「いとさん」「こいさん」と呼ばれる姉妹である。
その右隣りの子は、絞りの服に簡素な無地の帯で、羨ましそうな視線を左の子達に向けている。
ずっと離れて右端に立っている子は素足に草履で、髪に付けたのはリボンでなく一輪の野辺の花だろう。
経済的格差、社会差別を日本画の中にひっそりと且つ残酷に描き込んだのは、成園が初めてかもしれない。
成園はこの時まだ21歳である。

本展企画者の大阪中之島美術館学芸員の林野雅人は言っている、大阪の日本画のこうした特殊な背景から、今後、新たな画家や作品が発見されていく可能性は大いにある。中之島美術館はそれらを開拓し研究を深めていきたい、と。

[参考資料]
・図録『大阪の日本画』
　執筆林野雅人他
　発行 2023年1月、大阪中之島美術館,毎日新聞社

・音声ガイド「大阪の日本画」
　ナビゲーター片岡愛之助
　解説ナレーター藤村紀子
　制作アコースティガイド･ジャパン

・BS日テレ「ぶらぶら美術･博物館」『大阪の日本画』
　ディレクター山内かのこ
　放送 5/24

(続く)　
　

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