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2014年01月09日23:44

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■獺狐余話(9)　「エールを送る(2)　/　里中哲彦」

●2014年01月09日未明

　▼「ナラトさん、オレ、オレ・・、オレです、ドア開けてっ！」
　　「あれっ、キツネくん。こんな夜中に、どうしたんだね？」

　　「協同学苑の宿泊棟を抜け出して、夜の三木の山林を駆けてたら
　　　もう気分は<千里狐>、ひとっ跳びして、妙法寺・横尾の山まで
　　　やってきたンです」
　　「キミは、歳に似合わず元気だねー！！」

　　「ナラトさん、そんな事より、姫路城どーやったですか？」
　　「ああ、平成の大修理、見てきたよ。エレベータで、天守閣の
　　　てっぺんの屋根のところまで上って、工事の様子を見ることが
　　　できたよ」

　　「日本のお城って、ほんとに美しいなーと思ったよ。『白鷺城』と
　　　呼ばれるほど、姫路城の『漆喰』には、目を見張るものがあるよ。
　　　神戸から宮崎に帰省するとき、岡山あたりの農家の造りが、柱を
　　　残して、壁を漆喰で塗り固めているけど、淡路で小学校に登校する
　　　道沿いにも「野水の白壁」というのがあって、きれいだったよ・・。
　　　ヨーロッパのお城もいいけど、日本人には、やっぱり日本のお城が
　　　一番だ、とつくづく思ったな」
　　「えー『漆喰』？　ナラトさん、すぐに何にでも、かぶれる人だから・・」

　

　　▼「あぁ、キツネくん。キミ、今晩は『オンナの話』をしようじゃないか！」
　　　「えぇっ、なんですか！？　オンナの話って。やだなー。オレ、自分が
　　　　むき出しになるみたいで・・」

　　　「あれれ・・、キツネくん。おかしいじゃないか。キミほど自然に生き、
　　　　本能に生きてるキミがだよ・・。『むき出しになる・・』の嫌がるの
　　　　かねー」
　　　「だって、人前に、ワザワザさらす事もないでしょう・・？」

　　　「それも、そうだね」
　　　「オレ、ナラトさんがエッチなこと、『日記』にも書いていて、
　　　　なんやったか、学校の先生になったらストリップ見に行かれんように
　　　　なるので、教職の免許とっても絶対、学校の先生にはなりとうないとか、
　　　　エッチな『本』買うとき、どぎまぎしたとか、そんな『話』、『日記』に
　　　　書いとったでしょう」

　　　「あぁ、何か、書いたねー」
　　　「オレ、ホルモンか、フェロモンか、なんのせいか知らんけど、時期が
　　　　来ると、どうしょうもなく狂おしくなってくるねン・・・」

　　
　　▼「ほっ、ほー、そうかねー。キツネくん。でも、今夜の『オンナの話』、
　　　　そっちの『オンナ』じゃなくて、『ｏｎ，ａ』の話なんだけどネ」

　　　「えーっ、何んですか、それ？」
　　　「英文法の話だよ。キミも『英語』少し習っていたじゃないか。
　　　　英語の『前置詞』や『冠詞』の話なんだけど・・」

　　　「なあーんや、ナラトさん。キツネ、からかわんといてください。
　　　　オレ、てっきり『女』の話やと思うて、ドキドキしながら、本気に
　　　　なってたのに・・・」

　　　「ごめん、ごめん。別にからかった訳じゃなくて、『女・男』『男・女』の
　　　　話は大事な話で、エッチなことも話するとして、今夜は英文法の話をしようよ」

　▼「ああ、しょうもな・・。せっかく期待したのに・・」
　　「まあ、気をとりなおして、ちょっとボクの話を聞いてくれ給え」

　　「高校のころ、確か『ハタナカ』だったか、そんな名前の英語教師がいて、
　　　ボクの親友Ｎが、その先生に心酔していて、そのＮが言うには、
　　　ハタナカ先生は大学の頃、『オンナ』の研究に没頭して、卒論も『オンナ』
　　　についての論文だった・・、って言うんだ。ボクも、キツネくんと同じように
　　　オンナと聞いて生唾呑み込んだンだけど､前置詞や冠詞の研究の話だった」

　　「なんや、つまらん『話』ですね」
　　「いや、いや、話はこれからなんだよ。Ｎは早稲田の政経か英文か、もう
　　　進学先を決めていて、私学で受験科目数も限られるから、『英語』に
　　　焦点合わせて勉強して、成績はメキメキ上昇したんだ。心酔するような
　　　教師に出会い、目標が定まり、努力を集中させることの威力を、ボクは
　　　そのとき、思ったよ」

　　「また教訓話ですか・・・」
　　「そう先を急がなくてもいいじゃないか・・。Ｎの事については、また
　　　語るとして、ああ、Ｎはもう数年前に死んでしまったけど、彼がボクに
　　　いろいろ、テストしてくるんだよ」

　　▼「たとえば、『煙が目にしみる』というのは英語で何というか、とか・・」
　　　「ナラトさん、答えられました？」

　　　「いや、わからなかったね」
　　　「英語では、どう言うんですか？」

　　　「<Smoke Gets In Your Eyes>と言う。歌のタイトルだけどネ。
　　　　<Your>はもちろん<My>に替えるけど・・」

　

　　　「ある人は、歌詞をこう訳しているんだけど・・」

　　　

　▼「Ｎは、『サマーセット・モーム』が好きで、『月と六ペンス』とか、
　　　『サミング・アップ』とか・・」

　　　「ナラトさん、ナラトさん。Ｎさんの話は、また今度しましょう。
　　　　で、何が言いたいンですか・・」
　　　「Ｎのことは、キミにも無関係じゃないんだよ。キミの名刺つくってあげた
　　　　だろう、あの名刺にある『会社名』だよ」

　　　　

　

　　　「えーと、(株)ガス・イズ・ベスト管理、ってなってますけど・・」
　　　「そうだ、そこなんだよ。キミ！　ボクは、どっちにしようか迷ったんだ」

　　　「ナラトさん、もったいぶらずに早よう言うてくださいよ・・」
　　　「つまり、ボクは、『ガス・イズ・ベスト』にするか、それとも、
　　　　『ガス・イズ・ザ・ベスト』と、定冠詞「Ｔｈｅ」をつけるべきか、
　　　　否か、悩んだんだよ」

　　　「へーぇ、ますます、しょうもな。そんなことで悩むンですか・・。
　　　　アホちゃうか。　あっ、すみません・・・」

　▼「いや、いゃ、ほんとアホなんだけど、ボクとしては、キミの職場の名前、
　　　実名は使えなくても立派ないい会社名にしたいと思うのは、親ごころと
　　　いうもンだろう」

　　「そして、どーしたんですか？」

　　「そのとき、ボクは、あのＮのことを思い出したんだ。Ｎは、
　　　<Ｇａｓ　ｉｓ　ｂｅｓｔ！>　と書いて、これを訳してみて、
　　　という問題を出したことがあるんだ」

　　「へぇー、そんなことがあったンですか」
　　「高校のときだから、何年前の事だろう、新鮮な思いで、Ｎが、
　　　私にそう言ったときの気分や表情を思い出すなー」　　　

　　「ナラトさん、懐古趣味にならんとってください。こんなの中学生でも
　　　わかりますよ。『ガスが最も優れている』ということでしょ！」

　　「そう、そうなんだけど、彼はそれを『やっぱりガス！』と訳した
　　　んだねー」
　　「そんなの、ただの意訳じゃないですか・・」

　　「確かに・・。けど、言葉ちゅうのは、気分でしゃべるもンだろう。
　　　だとしたら、訳にも、その気分を伝える訳・言葉が必要じゃないかね」

　▼「ふーん、そんなモンですかね？」
　　「まあ、それはそれでいいけど・・、実は、これも当時、テレビの宣伝で
　　　ガス会社が流していたＣＭの一節なんだ」

　　「ふーん」
　　
　　「ＣＭで、英文の<Gas　is　best！>に、日本語「やっぱりガス！」」という
　　　テロップだったか、音声だったか、重なるんだよ」
　　「ふーん、・・・・」

　　「いま、この辺では、ガス会社は、<Ｗｉｔｈ　Ｇａｓ！>って、やってるね」
　　「ああ、大阪ガスは、そうＣＭでやってますね」

　　「キャッチ・コピーは、きわめて短い言葉で、こちらの想いを伝えなければ
　　　ならい。だから、前置詞とか冠詞はとても大切な働きをするンだね。
　　　リンカーンも、<ｏｆ>と、<ｂｙ>と、<ｆｏｒ>を上手に使ったじゃないか！」

　▼「ああ、思い出したわ。ナラトさん、ようメーカーにゆうとったわ、
　　　キャッチ・コピーはあとから考えるものではなく、まず、商品開発の
　　　はじめに、仕様書と同時作成されるべき<コンセプト>やゆうて・・」

　　「あれれ・・、キツネくん。よく覚えていてくれたねー。そうなんだ、
　　　いまごろ、また『表示問題』『ウソつき商品』のこと、問題になってる
　　　だろう。あれも、基本的には、出来た商品・製品に、実際以上の
　　　キャッチ・コピーをつけたがる行為と、一緒なんだ。法に触れるか、
　　　否か、に関係なく、実質以上に言葉で飾ろうという行為なんだ」

　　「あれれ・・、またコムズカシクなってきましたよ・・、ナラトさん」
　　
　　「<コンセプト>とは、本来、『受胎』とか『妊娠』とかに連なる言葉なんだよ。
　　　ところで、キツネくん、キミの『木常熊造』という、にんげんのコンセプトは
　　　何かね？」

　　「ぎょ、ぎょ、ぎょ・・。ナラトさん、急にヘンな質問しないでください。
　　　オレ、三田村信行さんと、佐野洋子さんによって生まれてきたんで、
　　　オレの自由意思で生まれてきたわけじゃないんで・・」

　　「何も、そんなに卑屈になる必要、ないんじゃないかなぁ。人間だって
　　　誰一人、自由意思で生まれてきた人はいないんだから・・。みんな
　　　吉野弘さんの詩『Ｉ　ｗａｓ　ｂｏｒｎ』のように、受身形で生まれてきたんだ。
　　　被害者風に表現すれば、<生まれさせられた>ということなんだ。
　　　でも、受身形で生まれてきた『にんげん』は何のために生まれてきたのだろうか」

　　「これも、<コンセプト>の問題だねー」

　▼「ナラトさん、ちょっと、ちょっと、待ってください。話が随分、
　　　広がりすぎていませんか・・」
　　「いや、ちっとも拡散はしていないよ。いよいよ焦点を合わせてきている
　　　と思うよ。ボクとしては、ここから『ニーチェ』の『神は死んだ』という
　　　話につなげていきたいと思っているのだけれど・・・」

　　「ナラトさん、ナラトさん。話が長くなっています。ちょっと休憩しましょう。
　　　それと、きょうのタイトルの『エールを送る(2)　/　里中哲彦』とは
　　　ゼンゼン、関係ないじゃないですか」

　　「いや、それがあるンだよ。『里中哲彦』って、キミ、覚えているかい？」
　　「ええ、覚えていますよ。ナラトさんがいちゃもんつけた人でしょう」

　　「おい、おい。キミ。人聞きの悪いこと、ゆわんとってくれないか。
　　　ボクは、里中さんのファンで応援しているからこそ、取り上げ、批評し、
　　　苦言を呈したのだよ。ボクは、彼が『福田恆存』をとりあげたとき、
　　　その姿勢について、『福田恆存』の御幣をかつぐな、、その権威に
　　　かしづくな、と言ったのだよ」
　
　　「へぇーっ、そうなんですか。それは『鶴見俊輔』『吉本隆明』でも同じ
　　　ですか？」
　　「当然、そのとおりだよ。どんな偉い人に対してでも、『自分は自分』
　　　とゆーことを、忘れるな、ちゅう事だよ」

　▼「なんか、ナラトさん、威張っていませんか？」
　　「いゃ、恥ずかしい。決して威張ってはいないけれど、『私は私』と
　　　おもっているンだ」

　　「で、ナラトさん。さっきの<Gas　is　best!>と、<Gas　is　the　best!>
　　　は、どう違うンですか？」
　　「ああ、その答えネ、それは英和辞典で「the」をまず読んでみることだね。
　　　そして、里中さんの『英文法の楽園』６ページを見てほしい」

　　「あれっ、『本』の宣伝ですか？」
　　「そうだよ。ワタシは里中さんを応援しているンだ。そして『英語』だけで
　　　なく、も一度『評論活動』やってほしいと思っている」

　▼「じゃあ、答えは、お預けですか？」
　　「あれれれ・・、キツネくん、うちのタツと同んなじだなあ。タツも
　　　小学校のころ、『お父さん、考え方や説明はいらんねん。答え、
　　　教えてくれたら、それで、ええねん』と、ゆーとった」

　　「そりゃ、そうでしょう。大切なのは、知りたいの答えなんですから、
　　　オレ、タツちゃん支持するわ！」

　　「まあ、マイミクさんに英語の得意な人もおられるから、一度、訪ねて行って
　　　2つの文はどう違うのか、教えてもらってもいいよ。それと、<With　gas！>
　　　これも、どんな日本語がふさわしいか、考えてみてくれないか？」

　　「あーぁ、ナラトさんとこに、寄らんかったらよかった。こんな宿題、もらう
　　　ために、きたんじゃないのに・・」

　　「さて、こんど来たら、そのときこそ、『男と女』の話をしよう。
　　　それも、吉本さんがどんなことを言っているか・・」
　　「えええ・・、吉本隆明・・。やめてくださいよ。ちっとも色気ないじゃ
　　　ないですか・・」

　　「いや、いや、キツネくん、それがそうじゃないんだよ。そんじょそこららの
　　　エロ本よりも、もっとエロいんだから・・」
　　「ほんまかなー。まあ、また来ますわ。それじゃ、また・・」

　

　　