最近読んだ本の、備忘的メモ。
●「東京ロンダリング」 (原田ひ香著、集英社文庫)
本当にそんな職業が存在するのか、原田ひ香の作品の主人公は不思議な仕事をしている人が登場することがある。この作品もそうである。離婚して住む家もお金もなくなった32歳の内田りさ子は、東京の賃貸物件をロンダリングするという仕事をすることになる。住民の不審死などがあった事故物件は、なかなか次の借り手がつかない。次の契約者にはそのことを伝える義務があるためだ。そこで、そこに短期間住むというのがりさ子の「仕事」だ。これで次の契約者には事故物件であることを伝える義務はなくなる。賃貸物件の浄化というわけだ。余計なことはせずに、ただ住むだけだ。孤独で無気力だったりさ子にはむしろ合っていた「仕事」だったが、移り住んだ先々で出会った人々との交流から、りさ子自身の心が次第に浄化され、自分自身を取り戻していくのである。
●「不完全性定理とはなにか 完全版」 (竹内薫著、講談社ブルーバックス)
ゲーデルの不完全性定理とチューリングの停止問題について、この2人の天才の思考の軌跡をたどりながら、問題の意味を深掘りしていこうという本である。そもそも「数学的には正しいのに証明できないことがある」といわれても、は?となるだけで、すぐには理解しがたいものだが、実は「正しいとこ」と「証明できること」は違うのである。ゲーデルの証明を見ても凡人にはよく分からないが、それをできるだけ分かりやすく説明している。一方でチューリングは計算可能性と停止問題に行き着くが、これはゲーデルの不完全性定理を全く別の視点から証明したものだという。ペアノの公理やカントールの対角線論法などをイントロにして、最後はチャイティンのΩ数まで話が進み、かなり難しい内容ながら、なんとなく分かったような気になってしまう(?)本である。
●「日本食堂の正直改革」 (武田正興著、晶文社)
かつて国鉄の列車の多くには食堂車が連結されていて、その営業を担っていたのが日本食堂株式会社(日食)である。しかし、国鉄の分割民営化の際には存亡の危機となった。日食不要論も台頭するなか、JR東日本は100%出資子会社を新設し、いよいよ日食の終焉が現実となりそうだった。そんななか、日食は新体制のもとで大改革を行い、旧態依然の企業体質から脱却し、サービスの高品質化をなしとげ、配送システムや会計システムなども一新し、ついにはJR東日本の有力子会社の「日本レストランエンタプライズ(NRE)」として飛躍していくのである。食堂車営業廃止後は弁当販売に主軸を移したが、それまでの駅弁から脱却し、有機米使用の品質本位の弁当「オーベントー」を開発して一定の成功を収める。元日食社長による日食改革史の本である。一貫した「鉄道貢献心」があったからこその改革実現だったという。
●「旅から 全国聞き歩き民俗誌」 (斎藤たま著、論創社)
書店勤務を辞めたあとは秩父の山中に移り住み、人生の半分は全国を旅してひたすら民俗学調査を行い、残りの半分を執筆に充てるということをしてきた著者。その著作の一つであり、大きく3つの旅、「鹿児島・奄美紀行」、「紀伊半島・十津川紀行」、「奥多摩の話者とお話し」を中心にし、その他の各地の旅からの話を載せている。研究者のような学術調査ではなく、とにかく歩いて歩いて話を聞いて、というのがスタイルだ。それゆえ、現地に行かなければ決して分からなかったであろう、その土地の独特の文化や習慣、言葉に至るまで、生々しく語られているのである。大体1980年代の記録のようだが、この頃はまだ、現在のような「どこに行っても都会とあまり変わらない」とはなっていなかったようで、たぶん今行っても変わっているだろうなと思いながら読んだ。最後には秩父の山中での暮らしぶりにも一章を充てていて、本物の田舎暮らしを満喫されていたようである。著者は2017年に亡くなられたとのこと。
●「ドミノ」 (恩田陸著、角川文庫)
「蜜蜂と遠雷」以外あまり読んだことのない恩田陸だったが、東京駅構内の書店に目立つように山積みになっていて購入。新刊でもないのに山積みにして売られていたのは、東京駅が舞台になっているからのようだ。決算月期限ギリギリの契約書を待つ保険会社、子役のオーディションをめぐるライバルの母親同士の戦い、恋人に別れ話をしようとする青年実業家、俳句仲間とのオフ会に参加するために上京した老人、その俳句仲間の警察OBたち、ミステリー好きの学生たちによる次期幹事の選定、プロモーションのためにペットを連れて来日した映画監督、そして爆弾によるテロを企てる過激派組織。見知らぬ者同士それぞれ無関係に事が進むが、やがてこれらがみんな絡み合って、一つの物語になっていくというパニックコメディである。面白かった。
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