mixiユーザー(id:5501094)

2023年08月17日09:21

65 view

吉本隆明著「吉本隆明全集31」を読んで


照る日曇る日 第1941回

この全集の最大の楽しみは、本文もさることながら月報で連載されている長女ハルノ宵子さんのエッセイを読むこと。今号では父親の死後3カ月ほど経ってから坂本龍一が訪れ、仏壇に花束を捧げてから吉本の原発論について聞かれたので、「火を見出したからには、もう人類は永久に火と向き合って考え続けねばならないと言っていた」と答えたという挿話が印象的だった。

ハルノさんによれば「原発やめたら猿になる」という衝撃的な見出しの雑誌インタビューが出たのは吉本逝去まで1年を切っていた頃だったが、当時の主人公は殆ど目も見えず、原稿のゲラチエックをする体力もなく、殆どノーチエックで世に出たのだという。坂本ならずともよく聞けば吉本がそれほど異常な考え方をしていた訳ではないと知れるのだった。

本書には既に感想を述べた「アフリカ的段階について」という論文、本物の遺書ではないが、遺書として仮託された死についての論考「遺書」、そして父と子についての思い出噺やエッセイを集めた「父の像」「少年」の3部構成になっていて、それぞれに面白いが、水難事故以降とみに衰えた体力、気力のあらわれか、口述筆記による未消化な記述も散見される。

けれども、そのことが決してハンディにならず、思想家吉本の代わりに、人間吉本の肉声がこちらに迸ってくる思いがして、読後感はかえって鮮烈である。私は「少年」第3章の「プロの詩人たち」を読んで、自分の詩の幼さを思い知らされた。

       吉本も龍一も居ない葉月かな 蝶人


5 6

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2023年08月>
  12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031