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2023年06月28日12:00

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長徳寺寄席2023〜東西二人会

6/25(日)、我が菩提寺で毎年恒例の「長徳寺寄席〜東西二人会」が開催された。第22回目を数える由。
新型コロナ感染拡大のせいでで中止となった事もあるが、皆、初夏のこのイベントを楽しみにしている。
私は2013年の第14回に初めて聴きに行った。

以下、昨2022年のレポート。
 https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1982610575&owner_id=3341406

出演者はいつもの通り、西から露の新治、東から柳家さん喬。

〈演題〉
・新治『一眼国』
・さん喬『初天神』

 〜中入り〜

・新治『口入れ屋』
・さん喬『子別れ』

中で『一眼国(いちがんこく)』は初めて聴く噺だったので、今日はこれについて紹介したい。

・・・・・・

千日前で見世物小屋を出している香具師(やし)の親方。
最近はコロナやらSNSやらのおかげでネタが尽きてもうて、ちょっとの事では客は驚かん。このままでは小屋仕舞いも考えなければならない始末。

源さんの見世物小屋にゾウが来た時は皆驚いたものだった、親方は良き時代を思い起こす。
身だけでなく耳も大きい、鼻は長い、それで器用に物を掴んで食べる。何の芸もせずとも、見物人は皆喜んだものだった。
しかし、育て方がよく分からず、しばらくするとかわいそうに死んでしまった。
大金を投じた手前、ショックを受けたが、源さんは根っから商売上手で、めげなかった。
看板に大きく「象が死んだのでこぞうが嘆き悲しんでおります」。
あれ?子供のゾウもおったんかいな、かわいそうになあと皆見に行くと、大きなゾウが横たわっているその脇でクリクリ頭の小さな子が、泣きながら「ナンマンダブ、ナンマンダブ」とお経を唱えている。
「こぞう」と書かれていたらてっきり子供のゾウかと思うが、「小僧」さんやった。
上手い事やりよんなあと、皆口をあんぐり開けた。
良い時代だった。

親方が思案しているところへ、六部(ろくぶ)さんがやってきた。
「六部」とは諸国の霊場を廻っている巡礼者。全国に六十六の霊場があるので正確には「六十六部」だが、皆端折って「ろくぶはん」と呼ぶ。
香具師の親方はいい男がきたと迎える、全国を廻っているなら、ヘソで茶を沸かす奴とか、冷え性のシロクマとか、山登りするトビウオとか、聴く聴くと言って人の話を一向に聴かない総理大臣とか、珍しいモノに出会う事も多いだろう。
親方は、六部を座らせ、いい話を聞かせてもらえたら食事を出すと言うのだが、残念ながらそんなモノには出会うた事がないとそっけない。
親方は、お礼の食事を、茶漬けからだんだん吊り上げ、タイの刺身やら何やら、終いには浜松の鰻の蒲焼も出てくるし、芸妓付きでひと晩宿泊もと言いだすのだが、六部は、腹は空いているものの何も思いだせない。

この次々矢継ぎ早やに繰り出すお礼な食事の提案は、新治の特徴がよく出て、聴いている方も乗せられる。人の話を聴かない理大臣の例には会場中大笑い。

落胆した親方、最後には、台所に冷や飯の残りがあるから、そこらに転がっているタクアンの切れっぱしででも勝手に食べていけと言い放つ。
それでも六部はありがたく頂く。
お腹が膨れると、血の巡りが良くなったのか、六部は膝を打ち、とある体験を思いだして語り始めた。

あれはいつの事だったか、四天王寺さんから西へ真っ直ぐ百里も歩くと、深いクヌギ林に入り込んだ。
日も暮れ、こんな所で野宿はしたくないと思っていると、突然広い野っぱらに出た。腰程迄草が茫々と映えている。何処からか寺の鐘の音がゴオオン。
原の向こうにはエノキの巨木が一本、その根元に向こうむきで立つ人の姿が見えた。
一夜の雨露でも凌げたらと、草を分け入って近寄っていけば、後ろ姿は五つか六つの女の子のようだった。
声をかけると女の子は振り向いた。
見ると、その子には額に大きな眼がひとつ、大きな口を開いて笑った。
私は仰天し、夢中で駆け出すとようやく人里に出た。

香具師の親方は手を打ち、これは見世物小屋で使えると喜び、六部に少しばかりの金子を握って渡した。

翌日、親方は旅支度をして家を出た。
六部が言う通り、四天王寺から西へどんどん歩き、百里も行くと、日が暮れてきた。
と、目の前に深いクヌギ林が現れた。
これだこれだとほくそ笑み、親方は林に入っていった。
しばらくあるくと、急に広い野っぱらに出た。確かに腰程迄草が生えている。そして、鐘の音がゴオオン。
六部の言っていたのはここに違いないと、親方は周囲を見回した。
すると、遥か向うに大木が見えた。
目を凝らすと、その木の下には一人の人影。
草をかき分けて近寄り、親方は後ろからその女の子を抱きかかえた。
振り向いた顔を見ると、額に眼がひとつ。
連れ帰って見世物小屋に出したろと思ったところで力が緩んだのか、女の子は大声で喚き逃げだした。
追いかけたものの、夜も更けて暗く、草は深く、林は広く、忽ち姿を見失う。

息を切らして、見回すと大勢の人の走る足音がバラバラと聞こえてくる。
忽ち後ろ手に縛られ、代官所へ突き出された。

お代官は、子供を誘拐した罪は重いと一括。
面(おもて)を上げよと言うが、親方はひれ伏し、出来心でございますのでお許しをと額を地面に擦りつける。
代官は再度表を上げよと命令、両脇の役人に六尺棒を使わせる。
むりやり顔を上げさせられた親方の顔を見ると、代官は、こいつ、眼がふたつも付いておるぞ!と驚く。
周囲の者達も大いにびっくりする様子。
親方が周りを見ると、代官も役人達も皆眼がひとつ。
代官は言う、取り調べはあと回しじゃ、早速見世物小屋に連れていけ。

・・・・・・

これを「逆さオチ」と言う由。

私達が日頃当然、常識と思っている事は、限られた世界で通用する狭量な価値観で、所が変われば価値観も大きく変わる。
なかなかに哲学的な噺でもある。
 
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