mixiユーザー(id:3341406)

Javascript の設定が無効になっているため、一部の機能を利用できません。

詳細はヘルプをご覧ください。

2023年06月14日12:00

131 view

歌劇《ポントの王ミトリダーテ》 / 演出宮城聰③

(続き)

◆舞台美術

宮城の思いがよく表れていたのが、本人も言っていた歌舞伎技術を取り込んだ日本風舞台美術だった。
以下のように、4段のひな壇みたいな造りにしてある。

・第1幕第1場～第3場

　　　↑中央がミトリダーテ王。

・第2幕第1場 / 第3幕第1場～第2場

　　　↑長男ファルナーチェと許嫁者イズメーネ。

・第2幕第2場

　　　↑王の婚約者アスパージア。

確かにこれだと、歌手等は制約され、あまり大袈裟な動きはできない。

各段の下壁(パネル)は回転するようになっていて、そこから歌手やダンサー達は出入りする。
また、そのパネルを全部ひっくり返すと、背景が早変わりし、場が転換する。

・第1幕のバックは仏画。風神のように見える。
　　天井には仏閣建築によくある「蟇股」を逆さにしたような装飾も設えている。
　　男役は鎧兜を身につけ、長刀を腰にぶら下げている。
・第2幕第1場と、第3幕のバックは竹林の山水画。
・第2幕第2場は赤富士と白鷹の浮世絵、または大和絵。

こちらは序曲、及びラストの第3幕第3場で使われる提灯の小道具。廃墟に迷う、戦争で死んだ者達の魂を象徴している。

◆モーツァルトの音楽

最後にモーツァルトの音楽に少し触れておこう。
この大作が、たった14歳の少年によって作られたとは信じがたい完成度と充実だ。
遥か後年の自身のオペラを想わせるようなアリアや重唱も、かしこにある。
また男女の心理の微妙な機微、移ろい等、どうやって理解し得たのだろうか。
初めてのオペラ･セリア(しかも長大な)への挑戦という事もあり、このオペラの部分にはたくさんの異曲やスケッチ、断片がある事が知られている。
14歳のモーツァルトにとって、簡単な仕事でなかった証拠だと言えよう、

また、ラストの五重唱は、人々の心理の変化を表現しきるのにはあまりに短か過ぎる。
そして、オペラ全体のコーダとして、ピークの盛り上げに不足感もある。
そのため、観客の拍手がすぐには起きなかった。
しかし、しばらくして湧き起った拍手や歓声は、長くいつ迄も終わらなかった。
新型コロナ後の初オペラとして、観客の歓びは如何ばかりだったか、想像ができる。

原作ジャン・バプティスト・ラシーヌ
台本ヴィット―リオ・アマデオ・チャーニャ=サンティ(イタリア語3幕)
作曲ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト

指揮マルク・ミンコフスキ
演奏ルーヴル宮音楽隊

演出宮城聰
空間構成木津潤平
美術深沢襟
衣装高橋佳代
照明イレーネ・ゼルカ
振付大田垣悠

出演
　ミトリダーテ王ペネ･パティ(Tn)
　アスパージア(王の婚約者) アナ･マリア･ラービン(Sp)
　ファルナーチェ(王の長男) ポール･アントワーヌ･ベノ･ジャン(Ct)
　シーファレ(王の次男) アンジェラ･ブラウアー(Ms)
　イズメーネ(ファルナーチェの許婚者) サラ･アリスティドゥ(Sp)
　アルバーテ(ニンファイオンの領主) アドリアーナ･ビニャーニ･レスカ(Sp)
　マルツィオ(ローマ護民官) サイ･ラティア(Tn)

原曲では、ミトリダーテ王と護民官マルツィオのみ男声(共にテノール)で、他の登場人物は、ファルナーチェ,シーファレ兄弟、領主アルバーテも含め全て女声という設定になっていた。
が、今回はファルナーチェにカウンターテナー歌手を充てた。
何れにせよ、男声の低音はこのオペラに存在しない。
見事なオペラ･ブッファをたくさん書いたモーツァルトだが、オペラ･セリアだけに、バロック･オペラの痕跡が残っているという理解ができよう。
　

1 3