5/14(日)、NHK-BSの「プレミアムシアター」で放送されたモーツァルトの歌劇《ポントの王ミトリダーテ》を観る。
《ポントの王ミトリダーテ》K.87(74a)はモーツァルトが1770年、僅か14歳の時に作曲した初めてのオペラ･セリア。イタリア語3幕。
歴史を見聞すると、かつてアナトリア半島(*1)の北西部、黒海沿岸に実在したポントス王国。紀元前2〜1世紀に在位した国王ミトリダテス6世(生没BC132-BC63/在位BC120-BC63)は、コルキス王国(*2)から黒海対岸のボスボロス王国(*3)迄支配を拡げ、共和制ローマと3度に亘り交戦した事で知られる。
ミトリダテス6世は第3次ミトリダテス戦争に敗れたあと、体制回復によって抵抗を試みたが、紀元前63年、息子のファルケナス2世の反乱により同年自殺に追い込まれた。
(*1) "小アジア"という言い方もある。現トルコ共和国の領域。
(*2)現ジョージア。
(*3)ボスボロス王国は、クリミア半島を含み、アゾフ海沿岸全域を支配していた。
フランスの劇作家ラシーヌ(1639-99)は、ミトリダテス6世を題材に、「王と2人の息子が1人の女性を同時に愛する」という虚構を絡ませて、悲劇『ミトリダート』を書いた。
この戯曲を基に、チーニャ=サンティが台本を書いた。
◆オペラのあらすじ
・第1幕、第1場〜ポント支配下のボスボロス王国、その港湾都市ニンファイオンの広場
ポントの王ミトリダーテは、婚約者アスパージアを2人の息子/兄ファルナーチェと弟シーファレに託し、ローマとの戦に出ている。
ある日、王が戦死したとの報せが入った。
実は兄弟2人共アスパージアに惚れていた。殊に兄ファルナーチェは強引に彼女に迫る。
しかし、アスパージアはシーファレの方に密かに愛を感じていた。アスパージアはシーファレに助けを乞う。
兄弟は反目し合う。
・同、第2場〜ビーナスの神殿
ニンファイオンの領主アルバーテがやってきて、兄弟を押し留め、驚いた事を言う、ミトリダーテは生きていて、今ニンファイオンの港に帰ってきた、と。
アスパージアは思う、ミトリダーテは短気で逆上しやすい性格、この成りゆきに不穏なものを感じた。
ファルナーチェは父とそりが合わず、かねてから密かにローマに通じており、ローマの護民官マルツィオと接触している。
・同、第3場〜ニンファイオンの港
敗戦を悔やむミトリダーテをイズメーネが慰める。
イズメーネはイラン･アルサケス王朝パルティア王の娘で、ファルナーチェの許婚者。ローマと戦うに際し、この政略結婚ははポント国にとって重要だ。
だが、ファルナーチェの心はアスパージアに傾いている。イズメーネは結婚に対して不安な思いを抱く。
ミトリダーテはアルバーテに言う、戦死の誤報はわざと流した、アスパージアと息子達の反応を見るためだった、と。
アルバーテは、この間の兄弟の態度や行動を王に報告する。
ミトリダーテはファルナーチェに激怒。一方のシーファレに対しては、私の盾となれと命ずる。
・第2幕、第1場〜宮殿の一室
イズメーネとファルナーチェのやりとり。イズメーネはファルナーチェの心変わりを責める。
ミトリダーテはアスパージアに対し、今すぐにでも結婚し、また明日には戦に出たいと話す、が、気乗りしないアスパージア。ミトリダーテは彼女の心が自分から離れており、その背景に息子達との不義があると信じ込んで激情をぶつける。
アスパージアは自らの心を抑え、王を刺激しないため、敢えてシーファレを避ける事とする。
シーファレは彼女の本心が自分にあると知り歓喜を覚えつつ、別れを決心、悲しみに暮れる。ホルン伴奏を伴った、長調でありながら切ない別れのアリア。ホルンソロはステージに出て奏する。
アスパージア苦悩のアリア、そのB部分は《魔笛》の夜の女王のアリアに似ている。
・同、第2場〜ミトリダーテ軍の野営地
ミトリダーテ王はローマに攻め上るとの遠大な野望をぶつ。
「我々アジアの復讐は整いつつある。敵はポンペイウスでなくローマだ。ローマに向けて進軍する。わしはかの地に王座を構える。」
ファルナーチェには「ユーフラテス川を渡りローマの七つの丘で戦え」と命ずる。
ファルナーチェは大国ローマを相手に無謀だと尻込み、一方シーファレはその攻撃は自分に任せて欲しいと申し出る。
突然ローマの護民官マルツィオが現れ、ファルナーチェの言う通りローマに従えば和平にも応ずると発言。
ファルナーチェがローマに通じていた事が分かり驚くミトリダーテ。
ファルナーチェを捕縛、大塔に幽閉を命ずる。
ミトリダーテはファルナーチェの行動の陰にアスパージアとの不義があると疑う。
アスパージアは否定しようとして、自分はファルナーチェでなくシーファレを愛しているとつい口走ってしまう。
怒るミトリダーテのアリア「私はもう慈悲の心を捨てた。裏切りに対し、父として、夫として、復讐あるのみ。」
シーファレとアスパージアも捕縛を命ぜられる。
アスパージアは観念し、シーファレと死ぬ決心をする。美しいデュオ「共に死のう。分かり合えるのは2人だけ。」
イズメーネは、息子らを殺すといきり立つミトリダーテを諭そうとする。アリア「復讐でなく、和解を！」。
・第3幕、第1場〜空中庭園
アスパージアはミトリダーテに切々と懇願する「私を責めて！、シーファレは許して!」。
そこへ砲撃の音。アルバーテが駆けつけ、ローマ軍の上陸と自軍の潰走をミトリダーテに報告する。
ミトリダーテはアスパージアの前に毒瓶を置き、戦いに向かう。
アスパージアは瓶を持ち、「死によって心の平安と自由を」と歌う。
飲もうとするところへシーファレが現れ、瓶を取りあげて言う、私は潔白を証明するため、ローマ兵と戦って死ぬ。
・同、第2場〜ニンファイオンの城壁に連なる大塔
柱に縛られたファルナーチェ。
激しい砲撃の音が聞こえ、白煙が漂う。
ローマの護民官マルツィオが来て彼の縄を切り、「ローマは約束を守る、勇者であるあなたはローマに迎え、望みの地位を与え、希望するなら報復もしよう」と。
ファルナーチェは良心の呵責に苛まれ、肉身を犠牲にして迄位階を得ようとは思わない、私は卑劣だったと悔い、ローマ軍と戦う道を採る。
・同、第3場〜宮殿の大広間
負傷し血だらけになったミトリダーテが現れる。
ミトリダーテは死を覚悟、もうだめだ、私はローマ兵によらず、勝利者として自ら死ぬと歌い、毒をあおる。
2人の息子達よ、ここに来て父の抱擁と愛を、と呟き事切れる。
ファルナーチェ、シーファレ、アスパージア、イズミーネ、アルパーテの五重唱、
「ローマに屈するな、あの傲慢に抵抗するのだ。
彼等は退く事を知らぬ、常に戦い、平和を与えぬ。
あの奢り高ぶる気風が、全世界を支配せんとして、我々から自由を奪おうとするいじょう。」
(続く)
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