南国に死して御恩のみなみかぜ
「鳥子」より。皇国前衛歌五十句中の一句。連作中の作であるから、南国は太平洋戦争中のマレー、フィリピン方面を指すと考えてよいが、一句単独で見た場合に四国、鹿児島あたりを想起すると読みに多少の混乱を生じるだろう。当時の用語としては南方が多用されたようだが、作句に際して採用されなかったのは、筆者の過ごした戦後が戦争の記憶の減衰を助けただろうか。
終戦後すぐに発表された「里の秋」は、一番が「しずかなしずかな里の秋」と始まるが、三番では「さよならさよなら椰子の島」のあとに、「ああとうさんよご無事でと」の祈りで終わる。痛切な思いを秘めつつ、メロディーは穏やか調べを奏でる。
揚句においても、南方ではなく、南国とすることで童話的な雰囲気を与えることに成功はしている。その成功を良しとする戦後的な雰囲気もあったであろう。
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