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2022年03月12日14:34

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原武史著「歴史のダイヤグラム」を読んで

照る日曇る日第1718回

「鉄道に見る日本近現代史」という副題が付いた新書だが、中原中也が出てくる「漱石と中也、「汽車」と「電車」」という短いコラムが面白かった。

1937(昭和12)年に私が毎年健康診断に行く鎌倉養生院(現在の清川病院)で、結核性の脳膜炎で30歳で夭折した詩人は、その最晩年の日々を寿福寺の境内の片隅で起居していた。

そして著者が引用しているように「汽車が速いのはよろしい、許す!」で始まる未発表の無題の詩の第4連には、

「エエイッ、うるさいではないか電気自動車と、
ガタガタガタガタ、朝から晩まで。
いつそ音のせぬのを発明せい。
音はどうも、やりきれぬぞ」

なぞと書かれている。

寿福寺の前には、今も昔も横須賀線が走っており、著者の調査では、当時は平日朝が上下各15分おき、それ以外は30分おきに走行しているから、確かに喧しかっただろうが、湘南新宿ラインも走っている現在は、ダイヤが3密になって、もっと喧しくなっているから、もし中也が長生きてしたとしても、たぶん発狂したに違いない。

ところで我が家では、今日のような土曜日の午前中、図書館の帰りに、妻が運転するアクアに乗って、くだんの踏切に差し掛かるのであるが、中也がいうほど電車の走行は煩くなくて、一番かしましいのは、列車が通過する前後にもカンカンカンと連打される信号機のフォルテッシモなので、中也がこれについて記さなかったのはなんとも不思議だ。

当時は、警報の連打よりも電車の走行音のほうがけたたましかったのかもしれないが、私は、この踏切を通り過ぎるたびに、左後方を振り返って、死の前年、長男文也を喪って、暗い心で、暗い部屋にひとり端座していた、孤独な詩人の姿を思い浮かべるのである。

自閉症の長男が教えてくれたこと横須賀線の信号は嬰ハ長調で鳴る 蝶人

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