蝶人狂言綺語&バガテル―そんな私のここだけの話第412回
○文学賞受賞を祝う友人のスピーチ
雨宮重彦さん、*1
いやさ、雨ちゃん。宮川賞受賞ほんとうにおめでとう。
僕は、君が、いまを去る30年前、横浜の大桟橋からバイカル号に乗って世界放浪旅行に旅立って行った日のことを思い出しています。
君はシベリア鉄道に乗って、モスクワを経由してパリに入り、そこからスペインのマドリッドに飛んで、当時まだ生存していたフランコ総統の独裁政権を打倒するべく勇躍日本を出発したのでしたが、1975年フランコの死去によってその野望を果たすことはできませんでした。
その後、君は当時流行のヒッピーとなって世界各地を放浪し、80年代になって帰国。インドの聖地ベナレスでの宗教的体験を基にした小説『大河』など数多くの秀作を矢継ぎ早に発表し、文壇の注目を集めました。*2
それから苦節15年。あの金満と飽食のバブルの時代にも、巷の栄華を低く見て、純文学ひとすじに研鑚された結果、通算15冊目の小説『辛酸』によってついに念願の宮川賞を受賞されたのです。おめでとう雨ちゃん。本当によくやったね。今日は朝まで飲み明かそう。
○アドバイス
*1名誉ある文学賞を獲得した友人を称えるスピーチ。学生時代の印象的なエピソードを紹介して、作家の修行時代の面影を伝える。親友ならではの滑らかな口調である。
*2作家の生活は苦しい。世間が「豊かな生活」で潤っていた時代にも雨宮氏は食うや食わずで悪戦苦闘していたのである。最後のフレーズに真情がこもる。
民草の1%の投票で首相が決まる奇怪なこの国 蝶人「
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