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2020年01月14日13:34

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西郷信綱『古事記の世界』

 西郷信綱『古事記の世界』(岩波新書、1967年)を読了。中国を源とする大陸文化の波は、六世紀から七世紀にかけ、直接に日本の国内へ雪崩れ込み、社会を根底から揺さ振るようになった。既に高度の成熟を遂げていた大陸の古典文化が流入し、日本がまだその中に生きていた神話的な伝統は、急速に掘り崩されて浸食された。
 こうした解体的な力のため、自己の拠って立つ地盤が喪失に瀕し、その状況が新たな次元で神話を結集するよう促す機縁となった。急速に崩壊しつつあった古い神話・伝承は新たに上からの、しかも、相当に慌てた編成のし直しで古事記となった。古事記は野の花としての神話であるというよりも多分に政治色に染められた国家的神話だった。
 それは詩人に空想の翼を貸したり比喩の原型を啓示したりする力に乏しく、神話論の素材として必ずしも上等とは言えない。しかし、政治体制の露わな擁護のために結集された古事記は一種の支配者イデオロギーだが、全てをそれで律しうるかと言えば、必ずしもそうではない。国家的な神学やイデオロギーに浸蝕されつつ、神代の物語はとにかくまだ神々の声が木霊する。
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