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2019年06月29日10:50

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野間幸恵句集管見

 野間幸恵の新しい句集「ON THE TABLE」は、書くのが難しい句集だ。一句一句が、書き始めると切りのない内容を秘めて、さて句集となるとどうまとめて評すれば良いかが皆目見当がつかない。
 一句ごとに書き始めると切りのない例として、

  ガリレオが渉るさみしいページ数

を挙げてみる。
 この句が句会に出されたときに、たまたま愚生は欠席だった。その関係で欠席選句をした。選評として、以下のような文を書いた。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 科学史上のニュートンやアインシュタインに対するガリレオ・ガリレイの立ち位置を、「さみしいページ数」と言ったとも取れないことはない。しかし、一般的には「それでも地球は動いている」を思い合わせて、句の意味を取る向きが多いかとは思う。句としてよいかどうかは別問題として、晩年の失明という状況を重ねれば、「さみしさ」という言葉も出てくるだろう。
 見づらくなった眼に望遠鏡を当てて、観測をひっそりと続けるガリレオの姿が句からにじみ出てくる。
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 句会では「渡る」だったが、句集では「渉る」と変更されている。それが効いているため、選評にある「句としてよいかどうかは別問題として」とした挿入文は意味を成さなくなっている。望遠鏡から目を離して、観測記録を書き付けるガリレオの姿が見えてくるようでもある。問題は、この程度の評文がすべての句に書けてしまうことなのだ。句集の評でよくやるような十句選が非常に難しい。
 したがって、以下に記す選句はあくまで仮の十句選である。その時々の事情により変化するだろうが、変化するのも一興として眺めてみたい。

  冬の季語ひらくロシアンルーレット
  遠すぎる返事のように漆ぬる
  じゃが芋を潰せばとてもブルドッグ
  スカラベを素数のように歌うのよ
  ガリレオが渉るさみしいページ数
  うっとりと琵琶湖を抱いて砂時計
  始祖鳥はピアノの一番高い音
  まがたまの夢中に座る雨かんむり
  風の名を三葉虫が折り返す
  春画には波を束ねる√かな

 とりあえずの選をしてみて、作者の興味が事物と名の隙間の漂よいにあるような印象を受ける。二読、三読を強いられそうだ。

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