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2019年05月11日16:38

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和田光弘『植民地から建国へ』(岩波新書、2019年)を読む 「シリーズ アメリカ合衆国史1」

 和田光弘『植民地から建国へ』(岩波新書、2019年)を読む。シリーズ「アメリカ合衆国史」の第一巻であり、いわゆる「建国の父」たちが引退する19世紀初頭までを扱う。

 合衆国の歴史であるため、その前史は軽く触れるだけかと思いきや、章を立てて描いている。大航海時代を経て、新大陸として「発見」されるという見方については、従来からヨーロッパ中心史観という批判があった。しかし、たとえそれに意識的であっても、アメリカの先住民たちをそれまでのイメージから理解してしまいがちだ。

 たとえば、西部劇などに登場するネイティブアメリカン(いわゆる「インディアン」)は、馬に乗って白人たちの集落を襲っているが、その馬はもともとアメリカ大陸にいたわけではない。これもヨーロッパから持ち込まれたものだった。また逆に、ドイツのジャガイモ、イタリアのトマトなど、ご当地料理には欠かせない食材だけれども、これらはアメリカ大陸が原産である。
 ここでは、北アメリカや東部沿岸だけではなく、ヨーロッパやアフリカとのかかわりも踏まえた、大西洋史(アトランティック・ヒストリー)という観点から、その前史を捉える手法を採用している。これもヨーロッパ中心史観と無縁の見方ではないにせよ、アメリカを世界史のなかで見つめ直すものともいえよう。ちょうど古代や中世の日本について、東シナ海や日本海を挟んだ交流や交易を意識するようなものである。そこから得られる知見は確かに多い。

 また、ヨーロッパ人の入植が必然的に独立に向かったという見方も再検討を促している。すなわち、従来はヨーロッパの文化や社会をそのままアメリカに持ち込み、それが現地の風土に影響を受けて独自色が強まった結果、独立に至ったと理解されてきた。
 しかし、独立への過程はむしろ植民地の「イギリス化」が強まった帰結という見方がなされている。つまり、植民地は当初、十分な社会が形成されておらず、ヨーロッパの風習も部分的なもの、「単純化」したものを許容する以外になかった。しかしイギリス本国と、アフリカやカリブ海域との交易が盛んになるなかで、植民地にも社会システムが拡大、強化され、ヨーロッパ的な秩序、文化を導入できるようになった。そうした「複雑化」がすなわち「イギリス化」の実態である。
 そして植民地が本国と似た水準の社会になることで、本国に対しても「モノを言う」ようになる。独立戦争も、それが必然であったというよりは、複雑化した植民地社会の権益保持を目的に、本国イギリスと対峙した結果に過ぎないものだったとも言えよう。当初はイギリスからの独立を望む声はほとんどなかった。しかし戦線が拡大していくなかで、植民地は連合し、独立への道を目指すことになる。

 このなかで、さまざまな「建国神話」が生まれた。アメリカに入植して最初に生まれたとされるヴァージニア・デア、植民地時代にネイティブアメリカンながら白人たちを救ったポカホンタス、さらに独立戦争の英雄の一人である銀細工師のポール・リビア、星条旗の作成に携わった女性、ベッツィ・ロスや国歌「星条旗」の逸話などがナショナル・ヒストリーに結びついていく姿も併せて描いている。興味深いことに、それらは同時代においてさほど注目された形跡がなく、19世紀以降、すなわちアメリカのナショナリズムが高まるなかで広がっていった。

 いわゆる建国の父たちの活躍や、彼らの意図に反して党派化する政治については、アメリカ史でもよく触れられるところだけれども、それらを取り巻く前史や社会にも目を向けており、一般向けの通史としてよくまとまっている本である。続刊も楽しみだ。

https://www.iwanami.co.jp/book/b450145.html
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