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2019年03月06日15:55

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乙川優三郎「トワイライトシャッフル」

御宿のリゾートに移住してきた人々と、ずっと暮らしてきた人々。
ともに人生の黄昏(トワイライト)に立ち、絶望し諦め、過去の取り返しのつかない過ちを思い、わずかな楽しみを支えに、なんとかよろよろと生きて行く。

日本の男と結婚しインドネシアから房総に移住し、男が逝った後もそこに住み続ける。
何故なら「人には老いてゆく体の居場所と若い心の居場所があって、彼女のそれはどちらもこの小さな街である」からだ。
これ以上の幸福がこの世にあるだろうか。

読書だけが楽しみの女が「煎じつめればこの世のことは何もかもが美しいのであり、美しくないのは生きることの気高い目的や自分の人間的価値を忘れたときの私たちの考えや行為だけである」というチェーホフの言葉を引きながら、
「この種の喜びを人に口で伝えるのは難しい。他人のことは知りたくないという人もいる。彼らは自分を取り巻く現実に埋もれて終わる。心の切り替えようがないし、別世界に漂い、学ぶことも出来ない。だから小説家は願いをこめて、彼らが見ようとしない世界を敢えて書き綴るのだろう。彼女もようやくその覚悟が出来たのであった」と、小説を書こうと決意する。
その決意こそが小説家なのだろう。
僕はそこに行けるだろうか。
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