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2019年02月14日17:58

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桜木紫乃「蛇行する月」

自身の故郷でもある道東の街。高校の同級生のその後の人生。

たぶん、ひとは日常のささやかな感動や幸福を支えに生きている。
たとえば、友人からもらった、気持ちのこもった思いがけない贈り物。
たとえば、いつも聴いている好きな音楽を聴きながら、好きな本を読む。
たとえば、午後の陽ざしのなかに、かつてそこにいたネコの気配を感じる。
ささやかなものこそが人生の支えだと、最近思う。

しかし、この物語はそのすべてを書かない。
日常の過酷さだけを描く。

すべての短編に登場する、ひたすらひたむきで強い順子。
母に疎まれ、思慕する教師に疎まれ、30歳離れた就職先の跡取りと駆け落ちし、目を病む子を産み、働きずめで40歳でガンになり、満足な治療も受けられず、自らの目が息子に移植される希望のみに生きる。
20年ぶりに会った同級生に「来年の桜はみられない」と言いながら、自分の目が生きることを幸福だと感じていると強く思わせる。

いったい、この人はなんなんだろう。
こんな人生がいったいなんになるんだろう。

いや、多くの、いやすべての人生はこうなのかもしれない。
こうなのだろう。
僕には、これを受けとれる強さはないな、と感じる。
たぶん一生、その強さは持てないなと、感じる。
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