mixiユーザー(id:6806513)

2019年02月07日14:14

77 view

金原ひとみ「軽薄」

「サプライズパーティーを企画されて喜べる人間であったことなど一度もなく、そもそもこの世界に生きながら、人にも場所にも仕事にも、何に対してもしっくりしてきたことがない。つまり、この世界に向いていない。電車に乗って流れる景色を見てるみたいに、私は一歩も動かないで皆を見てるだけ。一切能動的でない」カナは、かつて暮らした男に刺されたのは自分が二人の世界を本気で愛していなかったからだと思う。

「人を刺すことが悪いのか。人を殴ることが悪いのか。だとしたら、二人で作り上げた世界を卑劣な方法で破壊することは悪くないのか。それまで築き上げた世界からは信じられないほどの軽薄さで、相手と作ってきた大切なものをぶち壊す行為は悪ではないのか」と独白する。

そしてたまたまセレブ婚を手に入れたカナは、甥との情事の果てに、彼こそが「この世界に向いていない」同志であると気づき、この「生ぬるい世界」から解放される、という話である。

高樹のぶ子のように「万死あるだけの熱水と酸欠の場でしか命を燃やせない男女もいるのだと、作者は切実に傲慢に、素直に高揚をぶつけている」と、古くからある文学の役割みたいなところに落とし込むのは違う。
万死あるのは、カナが背を向けた、いわゆる普通の関係性の側かカナの側か、いやそもそも、どちらが側かを分かつことが出来るのか。

共感する独白も多い。
「自分の性癖を吐露出来ないことが不幸であるという考え方は受け入れ難い」
「誰にでも同じ基準を採用して他人に厳しく関わる人って相手からしたらすごく辛い」「どうでもいい言葉を口にするたびに、どんどん自分の価値が下がってゆく」

小説の多くは、少数派のためにある。
しかし、多数派が少数派の「ために」書くものではないし、多数派が少数派を「わかろう」として読むものじゃあない。
むろん、少数派が多数派に「わかって欲しくて」書くものではない。
同じように感じるだろう誰かのために小説は書かれる。
その言葉が誰かに届くことを望んで、書かれる。
1 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する