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2019年01月09日00:00

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ナイトランド・クォタリーVol.12 不可知の領域―コズミック・ホラー

 コズミックホラー特集号…クトゥルー神話ものを敢えて排しているのはわからなくはないが、そもそもこのジャンルに組み入れるのに首を傾げるような作品が過半を占めるのは如何なものか。

・沃沮の谷/荒山徹
本書で唯一クトゥルー神話を直接用いた作だが、なにせタイトルからして駄洒落なので…。相変わらず朝鮮への偏愛だか憎悪だか判別しかねる情熱で描かれたファンタジーで、この作家にかかると高句麗の「くり」はク・リトルリトルの「クリ」!なんだから恐れ入るしかない。いや連呼しても無理すぎだってば!。挙句ファファ―ド&グレイマウザーみたいな英雄コンビまで登場してジャンルを踏み外す大立ち回りするんだから、面白いけど、面白すぎるけど、こんなゲテモノを巻頭に置くのはどうかと思います。

・来たのはだれ?/キム・ニューマン
本書の一番の収穫、と思うが、19世紀のプランシェットを用いたアナログ霊媒と、現代のサイバー・ハッカーが交信してしまう、という奇想はSFに分類したい。

・音符の間の空白/ピート・ローリック
個人的には、これが本書中一番「コズミック・ホラー」ジャンルに嵌る作品かと思う。音楽を介した異次元との交信に、先祖伝来の呪い、とクトゥルー・ジャーゴンは用いないがラヴクラフト直系のホラー。

・地の底の影/サイモン・ストランザス
「電車通勤の憂鬱」をホラーとして煮詰めたような、日常の被膜一枚向こうの恐怖を描く掌編。これもラヴクラフト的ではあるがコズミックホラーかと言われると首を傾げる。

・北アメリカの湖棲怪物/ネイサン・バリングルード
ホラー版のバラード「溺れた巨人」といった趣向で、「怪物」は湖畔に打ち上げられた謎の死体としてのみ登場し、別に蘇って暴れ出したりはしない。だが、腐敗し醜悪なその物体に、なぜか主人公の娘は惹かれていて…出所後に家族との間の溝に悩む男を、一般小説のような語り口で描くなかに、怪物の死骸を異物として挿入する手法が見事。娘のスケッチブックのなかで輝かしく描かれた「死骸」は、父と娘の間に横たわる宇宙的断絶を象徴するランドマークか。

・〈マインツ詩編〉号の航海/ジャン・レイ
奇矯なタイトルにさほどの意味はなく、ホジスン風の海洋奇譚、と片付けても問題なしか。怪人に導かれて異界の海へ迷い込む、というだけのプロットに、不用な枝葉(船乗りに身をやつした公爵主従など)が多すぎる。

・魔仏来迎/朝松健
いつもの一休退魔もので、時代背景と道具立て(六代将軍義教の遺した魔具)から予期するほどの面白さはない。人の悪意を抽出した魔、というのもコズミックホラーの範疇ではなかろうし、特に対策なく挑んで日朝アニメみたいな心構え一つで打ち破れてしまうのも、拍子抜けもいいところだ。


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