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2018年05月16日23:18

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[観劇]1984

演出:小川絵梨子。
部屋の片隅で、骨董屋で手に入れた一冊の白紙の本に、禁じられた日記を記そうとするウィンストン。と、その手元が舞台の壁に大きく映し出され、今日の日付とともに「1984」のタイトル文字を書き付ける―。
オーウェルの原作を2時間の舞台劇として再構成する、という点では文句のでない出来である。ストーリーに過不足はなく、劇中繰り返される、「お前はどこにいる?」という問いと、「いつか影のない場所で再会しよう」というオブライエンの言葉がショッキングな形で結実する結末は、迫真の拷問シーンと相まって印象的だ。冒頭含め、スクリーンを効果的に使った演出もともすれば観客をビッグ・ブラザーに重ねる形になって(例えば主人公たちの密会は舞台装置の裏で行われ、観客はそれを窃視する視点を与えらえる)刺激的であるし、あどけない少女の声で語られる本編地の分および結末を飾る「マザーグース」も不気味な感触を残す。だが…それらの工夫はあくまで劇の枝葉の部分であって、原作を忠実に再現すればするほどに次のような疑問が湧いてくる…なぜ今「1984」なのか?この「2018」の現代に…ディストピア的ものが現実でもフィクション上でもより巧妙化し、普遍化し、陳腐化さえされきった今、この古典的ディストピア小説を舞台化する意味は?残念ながら自分にはそれが読み取れなかったように思う。
 またクライマックスの拷問も、いくら俳優が迫真の悲鳴を挙げ、血のりを流してみせようと舞台の上で繰り広げられている以上、すべて作り物に過ぎない。ショッキングなシーンをそのまま舞台上に載せるのではなく、偽物を本物以上に魅せる演出がこういう場面でこそ必要なのではないかとも感じた。

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