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2018年03月08日23:56

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[観劇]アンドラ/清流劇場

 スイスをモデルにした架空の小国「アンドラ」を舞台に、ユダヤ人と名指され、人々の偏見のなかで自分を失い、ついには処刑台に追いやられる若者の運命を描く。詩的に昇華された寓意劇であると同時に、俳優たちの熱演はもっとも凡俗卑近な人間の「悪」を抉り出し、縁遠いヨーロッパの一歴史的挿話と安閑視することを許さない。実際、このような悪意の収斂とスケープゴートの創出は、人間が社会を形成すれば、ほとんど必然的に発生しうるのではないか。キリストのゴルゴダへの道行きをなぞるような、12シーンの合間合間に挟まれた、脇役たちの「自分たちは悪くない」という、実に人間的で、実に卑劣な言い訳は、我々に身に覚えがあるだけにおぞましい。それが開幕では結婚を控え、希望に満ちていた主人公が、「彼ら」の悪意ならざる悪意によって、一つ一つ希望を潰され、「彼ら」の思う「ユダヤ人」の鋳型へと押し込められていく、その絶望の道行きに伴うものであれば、なおのこと。これだけ直截に告発の形を取る寓意劇が決して息苦しいだけのお説教にはなっていないのは、その絶望が徹底的に突き詰められたものであると同時に、日常のシーンに時折挿入される、怖いほど美しいビジョンのためでもある。例えば冒頭、ヒロインが壁を白く塗るシーン…
「乙女たちよ、雪のように白いアンドラを。夜のうちににわか雨さえ来なければ〜」
このイメージが、雨によって漆喰が流され「豚を殺した後のように」赤くむき出しになった壁と対置され、ラストシーンにも反復される。また、私生児であった主人公をユダヤ人の出自と偽ったため、事件の原因となった父親が白昼に幻視する「柱」、ユダヤ人たちをつるす処刑台は、これも結末を暗示するシンボルとして恐ろしくも美しい。
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