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2018年02月14日12:31

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ワイルダー『三月十五日』

 ソーントン・ワイルダー『三月十五日 カエサルの最期』(志内一興訳、みすず書房、2018年)を読了。二十世紀のアメリカを代表する劇作家・小説家の一人ソーントン・ワイルダーの小説。本作はカエサルが暗殺される日までの八ヶ月間を物語る。
 その期間にカエサルや周囲の人々が記した手紙などの手記が次々と連ねられて物語は展開する。ワイルダーは全知の語り手によって物語られる小説に関し、現代人の心に語り掛ける手段としての活力を失いつつあると信じていた。そこで、物語形式ではなくて書簡体小説の形式で執筆した。
 登場人物の言葉は現在形で、舞台上で語られるかのように親しく聴衆の一人一人へ同時に届けられる。本作に描かれるカエサルの思考も徹底して近代的かつ合理的だが、自己を信じて世界の頂点に立つと、彼の確信は何故か揺らぎを見せる。この迷いに端を発する心の探索が本作では物語られ、カエサルの思索を助けたり彼を諭したりするかのように様々な文書が配置される。
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