うつくしさ上から下へ秋の雨
押入を開けて布団の明るしよ(上田信治)
現状、愚生が繊細なセンサーを持ち合わせていない関係で、「うつくしさ」を「うつくしく」、「明るし」を「明るさ」と改変した場合に、どれほど句が毀損するかについて確定的なことは言えない。ただ作者が非常に鋭敏な感覚で、それを峻別していることは推察できる。秋でなければならないし、蒲団では駄目になるように、「うつくしさ」であり、「明るし」なのだろう。
どちらも日常のちょっとした瞬間、目の前に繰り広げられる光景にふっと捕らわれ、一瞬の放心状態に陥った意識をするどく捕捉している。実は、光景自体よりも、そうした意識のありよう自体を見つめるために、措辞の厳格さが求められているようにも思える。
意識は、対象がありはじめて発動する。それは厄介なことであり、かつまた愉快なことでもある。
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