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2018年02月06日18:49

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気儘徒然句鑑賞三十五

さくさくと言葉のあとさき青森の(野間幸恵)

 「さくさく」という擬音語からどのような対象が思い浮かぶだろうか。辞書には、雪などを踏む音の様子が取り上げられているが、リンゴを囓る音を連想する人も多いだろう。北原白秋が

 君かへす朝の舗石さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ

と、巧妙に雪からリンゴへの転換を図ってから「さくさく」とリンゴが結びついたのかどうかは分からないが、上揚句の青森もそうした連想の延長線上に引き出された言葉だろう。
 しかし、句にリンゴは出てこない。読後にその連想を引きずるとしても、句において「さくさく」と結びつくのは言葉のあとさきである。

  日本語の擬音は、「もの」の様態を真似てつくった語であるので、使い方によって隠喩的に働いて、「もの」の新たな面を発見させることになる。擬音は表現対象を変えることでレトリック効果を生むのである。「サクサクした歯ごたえのクッキー」、「にょろにょろと動くナマズ」など、擬音はたいてい、それを使用して酔い範囲を制限している。しかしこの語の許容の枠を超えることで、面白い文体効果をつくり出すことがある。パソコンに対して「サクサク動く」という表現を最初に目にした人たちは、当初かなり驚いた。−後略。 (「日本人とリズム感」樋口桂子)

 言葉のあとさきと結びついた「さくさく」は、それだけで言葉自体を一新させる。
 あらためて、言葉とは何だろうか、という疑問が思い浮かぶ。それもかなり爽やかに。

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