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2017年06月26日23:45

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書架の探偵/ジーン・ウルフ

 原題"A Borrowed Man"も邦題もともに字義通りの意味で内容を表しており、主人公であり語り手にして探偵役を務めるのは、図書館の「書架」に住まう過去の作家の複生体(リクローン)なのである。しかも基本的に人間とはみなされず、奴隷同然の扱いをされ、著述することも自由に喋ることもできない(自動的に慇懃な口調に修正されてしまう)という制限ある語り手というのだから、「新しい太陽の書」や「ウィザード・ナイト」のようなウルフ一流の韜晦的叙述法を知っていればイヤが応にも身構えてしまう。もっとも設定こそSF的にかなり「尖った」ものだが、プロットは探偵ものの典型をおおむね踏まえていて、リーダビリティは高い。むしろその読みやすさの裏で、恐ろしく奇妙な背景が展開されるのが、独特の味わいになってもいる。田園屋敷の閉ざされた部屋を開けてみれば、原子炉と異星のエメラルド鉱山が!無茶苦茶の数倍だが、こういう「典型」的ストーリーへの異次元の闖入、というのはウールスでは日常茶飯事だった、という連想もある。傑作、とは言えないだろうが、なかなか忘れられない、そんな作品。
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