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2016年08月22日17:52

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ピーター・ゲイ『小説から歴史へ』

 ピーター・ゲイ『小説から歴史へ ディケンズ、フロベール、トーマス・マン』(金子幸男訳、岩波書店、2004年)を読了。一九世紀はリアリズム文学の世紀と言われるが、多くのリアリズム作品は社会の事実を単に記述することしかしないので、却って歴史的な価値を持たない。それに対してディケンズやフロベール、トーマス・マンのようなリアリズム作家は個々の歴史的な事実と合わないところが多少はあるが、典型を取り出して社会や文化を反映するように描き、歴史叙述として優れた作品を仕上げている。
 優れた小説家は個人を描くことがそのまま文化・社会、何らかの典型を描くことに繋がっている。典型によって歴史的な真実を描く物語には歴史叙述の新たな可能性が見られる。ただ、だからと言って事実をないがしろにして良いわけではなく、小説における歴史叙述と歴史実証主義における歴史記述の間に価値のヒエラルキーは持ち込めない。
 歴史はポストモダンの歴史観においては虚構の一種となって小説に接近する。しかし、歴史学者は職業的な厳しい訓練を受け、判断基準が確立してその基準自体が吟味可能な職業ギルドの一員となり、偏見に陥る機会を減らす。彼らは過去に関する徹底的に幅広い知見に基づいた意見の一致を理想と掲げるが、その実現は可能であると言える。
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