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2014年02月18日15:45

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映画『いとしきエブリデイ』

シネマe-ra浜松で『いとしきエブリデイ』を観る。

フィクションではあるのだが、ドキュメンタリーの要素も加えて全体を構成している。
大袈裟な事件はなく、日々の生活が淡々と積み重ねられていく。

冒頭から既に父親は刑務所に服役中である。
家には、母と4人の子供達(上から女,男,男,女)がいる。
朝暗いうちに、母親は子供達を次々起こす。幼い子等はまだ寝むそうだが、言う事を聞いて起きてくる。次男の口にはおしゃぶりがくわえられている。
今日は父親の面会日である。母子は手を繋ぎ、バスや電車を幾本も乗り換えて刑務所に向かう。

父親の不在、これがこの物語の骨格となっている。
説明はないが、母親はまだ若い、30歳代半ばといったところか。
父親は、恐らくつまらぬ犯罪で服役している。それも明確には示されない。刑は5年。妻との歳の差はそれ程ないのではないか。まだ大人になり切れないところがある。

映画には、母子の生活と、刑務所での面会の様子、仮釈放、そして出所から数日迄が描かれている。
母は昼間はスーパーでパート、夜も時々バーで働く。その間で子供達4人を学校,幼稚園に送り迎え。大した蓄えもなく、母親は大変な毎日だ。しかし、子等に当たったりはしない。
そんな母親を助けてくれる男友達がいる。子供達は彼になつき、ピクニックに行く事もある。彼女と彼の関係は、観客に理解を委ねている。

イングランド東部、ノーフォークの豊かな景色、水彩画のような自然がカメラに収められる。実りの農地、狩猟も行われる深い森、干潟に鳥達も群がる海辺。気温だけでなく、その湿度迄がスクリーンを通して伝わってくる。

5年は物語上の設定だけではない、実際に同じ年月をかけて映画は撮られた。
4人の子供は実の兄弟でもあって、顔付きもよく似ている。
面会の度に、子供達は大きくなっている。不在者である父の目から子供達の変化は捉えられ、観客は彼の目と共通の驚きを持つ。
次男の口からおしゃぶりは外れ、オシメも取れる。
長女,長男の背は伸び、彼女の体付きは女性らしく丸くなってくる。ボーイフレンドもできる。
長男は両親に甘えるより、単独の行動をとろうとするようになる。
子等の変化は、人間であるより先に、ノーフォークの豊かな自然の中の生き物である事を感じさせる。

カメラに収められた家は実際に4兄弟の住む家で、学校,幼稚園も彼等が通っているそれを使ったらしい。
子供達は何処からが演技だろうか、どれ程自覚していただろうか。
それはよく判らない。
しかし、年月は間違いなく彼等の上に訪れ、身体や感情に変化をもたらした。
敢えてそれを人間的成長と映画は主張しない。
それは両親においても同じだ。
日々は積み重ねられ、四季は繰り返す。
しかし、不在の日々は取り戻しが利かない。妻は、出所した夫に、助けてくれた男友達の存在を告白する。夫は激昂する、が。

物語はフィクションだけれども、時間の堆積は事実である。
類まれな映画である。


監督・脚本 マイケル・ウィンターボトム
脚本 ローレンス・コリアット(共同)
撮影 ジェームズ・クラーク他
編集 マッグス・アーノルド他
音楽 マイケル・ナイマン

出演 シャーリー・ヘンダーソン,ジョン・シム,カーク4兄弟 他

2012年/英
 
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