昨1/31(金)の晩、アクトシティ浜松の中ホールで開かれたベルリン･フィル八重奏団の演奏会を聴きに行った。席は前から7列目の中央、いい場所だった。
この八重奏団は名前にある通り、ベルリン･フィルハーモニー管弦楽団のメンバーで構成されている。80年以上の歴史を持ち、少しずつメンバーを変えて現在に到る迄続いている。著名な20世紀の作曲家がこの八重奏団の為に作曲をしてきた、そんな経歴も持っている。
今回のメンバーは、2010年にベルリン･フィルの第1コンサートマスターに就任した樫本大進を第1ヴァイオリンに据えた。
全員の名前と楽器は以下の通り。
Vn.��.樫本大進
Vn.��.ロマーノ･トマシーニ
Va.アミハイ･グロス
Vc.クリストフ･イゲルブリンク
Cb.エネスコ･ライネ
Cl.ヴェンツェル･フックス
Hr.シュテファン･ドール
Fg.モル･ビロン
ライネ,フックス,ドールはベルリン･フィルの各楽器の首席である。
日本での公演は、1/23から2/2迄、連日全国各地で計画されており、浜松は全10回の内8番目。
この間休みは1/29のみ、大変なスケジュールだ。今日2/1は横浜みなとみらいホールへ。
プログラムは、以下。
1)リヒャルト･シュトラウス作曲(ハーゼンエール編) 『もう一人のティル･オイレンシュピーゲル』
2)モーツァルト クラリネット五重奏曲 イ長調 K.581
<休憩>
3)シューベルト 八重奏曲 ヘ長調 D.803
尚、9公演がこのプログラムで、東京オペラシティ(1/27)のみ、クラリネット五重奏曲の代わりに、同じ作曲家のホルン五重奏曲 変ホ長調 K.407を入れている。
1)は、R･シュトラウスが作曲した交響詩『ティル･オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』(1895)を、フランツ･ハーゼンエールが5人の奏者(Vn,Cb,Cl,Hr,Fg)用に編曲したもので、曲内容もコンパクトにしている。弦2と木管3の生み出すアンサンブルの離合集散の様、軽妙で洒脱な味わいを愉しむ。
2)が当夜のメイン。演奏時間は3)の方が遥かに長いが、曲の芸術的完成度という意味では、これこそ室内楽の名曲中の名曲と言うべきだ。
楽器の構成はクラリネット＋弦楽四重奏(Vn×2,Va,Vc)。しかし、小さなクラリネット協奏曲というより、小さなシンフォニーと考えるべきだ。クラリネットの扱いは、決してヴィルトォーゾ(名人芸)ではなく、アンサンブルの響きにこそ妙がある。古典期の室内楽では、協奏を狙ったものは3楽章構成で、4楽章にはしない。
1789年作曲、モーツァルトに残されたのはあと2年のみ。
曲の楽章構成は以下。
・第1楽章アレグロ イ長調4/4、ソナタ形式
・第2楽章ラルゲット ニ長調3/4、三部形式
・第3楽章メヌエット イ長調3/4、2つのトリオ付き
・第4楽章アレグレット･コン･ヴァリアツィオーニ イ長調2/2
クラリネットのフックスは素晴らしい音色と歌を聞かせた。
第1Vn.の樫本は少し引いて、フックスを立ていたが、本来はもう少し前に出ていい。
例えば、第2楽章ラルゲットのCl.とVn.�気粒櫃厩腓い蓮�均等に歌い合って欲しいものだった。
この見事な緩徐楽章のCl.とVn.�気蓮△泙襪濃爐防里靴震宜い併匐，半隶Δ頬�ちた母親の静かで切々とした会話のようにも聞こえ、心に沁み入るものだが、このアンサンブルの演奏は、Cl.の洒脱味を前に出していた。それはそれ、彼等の考えを示したもので認めるけれども。
3)は50分を超える大曲。しかし、中身は、セレナーデやディヴェルティメントのような楽しさ溢れるもので、禁欲的なものではない。一種の機会音楽と捉え、気楽に聴くのが本来だろう。
作曲の依頼者はトロイヤー伯フェルディナントで、自身Cl.を演奏したというから、やはりそれが目立つ作りにはなっている。1824年作曲。
楽器構成は、本来の彼等八重奏団全員が舞台に並ぶ。
Vn.�気�Cl.つまり樫本とフックスは半円の端と端、客席に一番近い位置に立つ。(Vc.以外は全員が立って演奏)
2人は、繰り返し視線を合わせ、押したり引いたり微笑んだり、如何にも楽しそうに掛け合いをした。それがまるで夫婦のようにも見えて、気持ち悪かったが(笑)。
この2人は16歳も年齢が離れている。フックスはもう20年間ベルリンの首席Cl.を務めていて、大進は1目も2目も置いているいるのだろう。
でも、フックスは若く見えて、どちらかというとやんちゃ坊主の感。当日の服装は、黒シルクのスタンドカラーのブラウスを上下スーツの中に着ていたが、一人だけ、上着の前ボタンを締めず、ブラウスもスポンの中に収めない恰好で、リラックスした風だった。
今回の演奏会では、ともかくフックスが一番目立っていた。表現の方向性も、彼の意向というか存在感が大きく働いていたように思う。
曲の構成は、
・第1楽章アダージョ〜アレグロ ヘ長調4/4、序奏付きのソナタ形式
・第2楽章アダージョ 変ロ長調6/8
・第3楽章アレグロ･ヴィヴァーチェ ヘ長調3/4、スケルツォ
・第4楽章アンダンテ ハ長調2/4、主題と変奏
・第5楽章メヌエット･アレグレット ヘ長調3/4
・第6楽章アンダンテ･モルト〜アレグロ 変イ長調4/4、序奏付きフィナーレ
全編殆ど長調で通すのは、ベースを貴族社会の好みに置いた機会音楽の様相を示しているが、第4楽章の第5変奏のみ短調に転調、急に暗く不安な色彩に転じるが、この変化が実に素晴らしい。ここにシューベルトの内なる心象風景が図らずも出てしまったという感がある。疾駆するリズム音形は歌曲『魔王』を想わせもする。
全曲が終わり、素晴らしいアンサンブルに万雷の拍手が送られたが、アンコールはなし。
この同じ八重奏メンバー全員でやれる曲はそうそうない。また、上で触れた過密スケジュールを考えると無理もできまい。
いい演奏と音楽で十二分に満足、心豊かに帰路に着いたのだった。
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