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2013年01月16日21:31

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【音楽】 ショスタコーヴィチの歌劇「オランゴ」

 中川右介著『未完成』(角川SSC新書)を読んだ。内容は、クラシック音楽の未完成の代表作品を取り上げ、「未完成」となった経緯や作品の背景などを書いたものである。「無念の死による未完の悲劇」だの「これ以上美しいものを書けなくなった芸術家の苦悩」だのといった、捏造された感動の物語による粉飾を剥ぎ取り、真の姿を考えたいというのが主旨のようだ。

 取り上げられている作品は6つ。
 ・シューベルト:交響曲第7番(旧8番)−いわゆる「未完成交響曲」
 ・ブルックナー:交響曲第9番
 ・マーラー:交響曲第10番
 ・ショスタコーヴィチ:歌劇「オランゴ」
 ・プッチーニ:歌劇「トゥーランドット」
 ・モーツァルト:レクイエム

 このうち5つは知っている。しかし、「オランゴ」は全く知らなかった。演奏を聴いたことがないどころか、存在すら知らなかった。コアなショスタコーヴィチのファンの人はすでに知っていることなのだろうが、たしなむ程度の私は、この本で初めて知ったのである。

 2004年に、途中まで書かれて破棄されたオペラのピアノスケッチとして発見されたのが、このオペラ「オランゴ」だという。その後イギリスの音楽学者マクベニーによるオーケストレーションがなされ、30分ほどの「プロローグ」が2011年12月にサロネン指揮ロサンゼルス・フィルハーモニックにより初演されたという。

 なぜこの作品が21世紀まで未知だったのか。「忘れられていた」のではなく、「存在すら知られていなかった」のである。そのあたりは、ソ連という国の事情があることは推察できるが、あらすじを見るとすごく面白そうなのである。

 「オランゴ」は、生物学的実験により人間と猿を交配させて生まれた半人半猿である。かつてソ連では、実際にそういう研究が行われていたらしいという話もある。人間よりも力があり知能は劣るこの生物は、従順な兵士や過酷な重労働をさせるのにもってこいだ。人間なら死なせるのにためらいがあるが、「人間でない生物」なら気にする必要もない...

 そんなことがベースにあったのかどうか分からないが、このオペラはこんなストーリーだ。ある生物学者により人間の精子をメスザルに受精させる。それをある新聞社が問題にしたので(当然だ)、妊娠した猿を遠くに逃がす。密かに逃がした先の科学者と連絡を取り続け、やがてその猿が、外見は人間そっくりの半人半猿を出産したことを知る。

 時は過ぎ、ある日ある生物学者の家を訪ねた男があった。その男こそ、成人した半人半猿であった。「オランゴ」と名乗る彼は、やがて新聞社で働くようになる。その新聞社こそ、かつてこの実験を問題にした新聞社であった。彼はそこで出世しいていく。

 彼は政治的にも経済的にも大きな力を持つようになるが、唯一意のままにならないのが生物学者の娘だ。彼女を手に入れたいという思いで欲求不満が昂じていく。そして彼は歳を取るにしたがい、母親である猿に似てくる。ついに発狂し、完全に猿に退化してしまい、サーカスに売り飛ばされ最後は檻の中。

 完成されていたら面白い作品になっただろうという気がする。

 さて、この歌劇「オランゴ」の「プロローグ」初演を録音したCDが発売されていると知り、早速買って聴いてみた。前述のとおり、2011年12月にサロネン指揮ロサンゼルス・フィルハーモニックによって演奏されたものだ。歌手陣は、ライアン・マッキニー(バス・バリトン)、ジョルダン・ビッシュ(バス)、ユージン・ブランコヴォーヌ(バリトン)、アドリアーナ・マンフレーディ(アルト)、他。

 「プロローグ」は、完全に猿になった「オランゴ」が、祝典会場で見世物になっている場面らしい。このあと、前述の物語が「回想」という形で展開される訳だ。さて、「プロローグ」を聴くと、これがなかなか面白いもので、親しみやすいユーモラスなメロディーが多く、楽しげなそしてどこか悲しげな「喜劇」の音楽である。こんな作品が21世紀になって「発見」されるのだから楽しい。

 ちなみにCDは、これまた何かと「問題作」だった交響曲第4番との2枚組である。

               (Deutsche Grammophon 00289-479-0249)

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