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2015年06月07日22:00

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【映画】 「鬼畜」 (1978年、野村芳太郎監督)

5/31に「芥川也寸志生誕90年記念演奏会」に行った(日記参照)が、その時に演奏された映画音楽の組曲の一つに「鬼畜」があった。「鬼畜」は1978年公開、野村芳太郎監督の映画である。原作は松本清張。この映画は観たことがなかったので、音楽を聴いたのを機会に観てみようと思い、DVDを購入して今日自宅で観た。

身勝手な大人の、まさに「鬼畜」の所業の犠牲になる純真な子供たち。小川真由美、岩下志麻は、観ていても怖い。主役の緒形拳も含めて素晴らしい演技であり、それだけにこの映画が迫真を持って伝わる。事実に基づいた小説を映画化したものだが、こんなことが現実にあったとは...

菊代(小川真由美)は、ある日3人の幼い子供(利一、良子、庄二)を連れて、東武東上線に乗って川越の印刷屋を訪ねる。ここの主人の宗吉(緒形拳)こそ、3人の子供の父親なのだ。菊代は元料亭の女中で、宗吉の愛人だった。羽振りの良かった宗吉は愛人を囲って3人の子供を産ませたが、今は工場が火災に会うなど事業も苦しくなり、養育費も滞っていた。そこに菊代が怒鳴り込んできた訳だ。全く知らなかった宗吉の妻お梅(岩下志麻)が激怒。女同士の罵り合いが凄い。おろおろするだけの宗吉。菊代は3人の子供を「あなたの子供だから」と置き去りにして、どこかに行ってしまい、その後は行方知れず。お梅は「他人の産んだ子なんて面倒みる気はない」と言い放ち、虐待を加える。

末っ子の庄二は、お梅の育児放棄により衰弱死。宗吉の内心を見透かしたように、「助かったろう、1つだけ気が楽になってさあ」など、とても人間とは思えない言葉を吐く。1人は死んだ。残り2人も「始末」すれば、元の平穏な生活に戻れる...

宗吉は良子を、東京見物と称して東京タワーなどに連れていく。その東京タワーの展望台にそっと置き去りにして帰ってしまう。良子は住所も分からない、父親の名前も「父ちゃん」としか分からないし、帰ってくることはないだろう。しかし、長男はもう6歳なので、この手は使えない。印刷業関係の伝手で青酸カリを入手し、毒殺を夫に「指示」する妻。パンに青酸カリを仕込んで上野公園などを連れて回るが、とうとう殺し切れずに一緒に帰ってくる。今度は熱海の錦ヶ浦に連れていけと、次の「指示」を出す妻。新幹線に乗せて連れていくが、熱海で降りず、米原まで乗り越して結局福井まで行った。宗吉には人間の心が残っているのか、「鬼畜」になり切れないのか、躊躇があるようだ。東尋坊に連れていくがここでも果たせず、結局能登まで連れて行き、ここの岸壁でついに海に落としてしまう。

幸い漁師に発見されて命は取り留めた利一。地元の警察に保護されるが、親の情報につながることは口を閉ざして語ろうとしない。しかし、ポケットに入っていた石が石版に使う特殊な石で、ここから宗吉が割り出せた。宗吉を川越から能登に殺人未遂の疑いで連行する刑事。利一に会わせると、利一は「父ちゃんじゃない! 知らない人だ!」という。泣き崩れ詫びる宗吉。しかし、利一は結局、施設に預けられることになった。

最後の利一の言葉はどう解釈できるだろう。あくまでも父親をかばおうとする心理か、こんな人は親ではないという決別の言葉か、おそらく6歳の子供の心には両方があるのだろう。このシーンでは自分も観ていて号泣してしまった。

自ら産んだ子を置き去りにした菊代、その子らを虐待して1人を死に至らしめ他の子も消すように仕向けたお梅、そして実際に置き去りにして捨ててきたり海に落としたりした宗吉、いずれも「鬼畜」の所業ではあるが、もともとはみんな「いい人」だ。どこかで歯車が狂ってこうなってしまったのだ。宗吉は、ちょっと頼りないがお人よしの印刷屋の主人で、自分も苦労した子供時代を過ごしている(能登の旅館で利一に語っている)。お梅も経営の苦しい印刷屋をなんとか切り盛りしているしっかりものの町工場の女房だったはず。でも、ある日突然、夫の愛人の子供が3人も目の前に現れて押しつけられたら、平常心でいられるか...

音楽はもちろん芥川也寸志。ストリートオルガンで奏でられるメインテーマは、劇中でも何度か出てくる。オルゴールの曲もこのメロディーだ。「鬼畜」というタイトルだけから想像するようなおどろおどろしい音楽ではなく、逆にほのぼのとした(そしてどこか暗い)音楽が、「鬼畜」な大人たちとの対比で、大人たちの犠牲になる純真な子供を表しているようで、それゆえに効果的になっている。

観て「ああ、楽しかった」という映画ではない。何か心に引っ掛かるような、なんともいえない後味の映画であった。

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