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2025年11月09日20:58

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【音楽】 前孝ピアノリサイタル ~マリー・ジャエル没後100年記念

今日は銀座に前孝ピアノリサイタルを聴きに行った。「マリー・ジャエル没後100年記念」の演奏会ということである。プログラムは次のとおりである。

 ・ジャエル:アルバムの1ページ
 ・ジャエル:組曲「雨の日」
 ・ジャエル:プリズム〜音楽の問題I・II
 ・ジャエル:組曲「朝の散歩」
 ・ジャエル:メランコリックなワルツI〜VI
 ・ジャエル:6つのロマンティックなスケッチ

   ピアノ:前孝
   会場:王子ホール (15:00 開演)

「まだマリー・ジャエルを知らないあなたへ」というキャッチコピーなのだが、私はまさにこれに該当するのである。マリー・ジャエルという人は全く未知であり、前孝の演奏を聴くのも初めてである。今日は完全に未知の世界に入るものである。

マリー・ジャエル(1846-1925)はフランス生まれで、幼少よりピアノの才能を発揮していた。パリ音楽院を首席で卒業したあともヨーロッパ各地で演奏活動を続け、一方で作曲も始めるのである。リストとは親交があり、リストは彼女の作品について、「あなたの作品に男の名前が書かれていたら、全てのピアニストがあなたの作品を奏でたでしょう」と言ったという。当時は女性というだけで作曲家としては認められなかったのである。そのまま彼女の作品は埋もれて忘れ去られていたが、ピアニストの前孝がふとしたきっかけで出会ったマリーの作品に心打たれ、日本におけるマリー・ジャエルの紹介者になろうと決心し、ようやく今回の演奏会に至ったという。マリーの作品自体が、本日おそらく日本初演である。

そんな訳で、まずは「アルバムの1ページ」から始まるが、幸せな結婚生活の中で書かれた初期の作品ということで、穏やかで幸福感溢れる素敵な曲だなと感じた。女性作曲家らしい雰囲気が伝わってくる。

続いての「雨の日」は12曲から成る組曲だが、今日の東京も雨であり、これに合わせたかのような(?)天気である。雨の描写や、雨の日の心情など、各曲のタイトルを見ながら聴くと、イメージがぴったりとの曲である。雨や風をピアノだけで見事に表現しており、これは一度聴いただけで個人的お気に入りのピアノ曲になった。

「プリズム」は「踊りの反映」と「歌の反映」の2曲から成るのだが、「踊り」ではリズミカルに展開し、「歌」は様々に展開しながら、最後は激しく締めくくるのである。「朝の散歩」は4曲から成る組曲で、夜明けの森をゆっくりと歩きつつ、迷ったり、蠅の群れに出会ったりして、最後は何かに引っ張られていくような、そんな感じの曲である。ゆっくりと寛いだ散歩というよりは、いろいろと思いを巡らせて心が揺れ動くような、心情描写の曲のようである。

ここで休憩となるが、その間にロビーで楽譜のコピーを見せてもらった。日本国内では入手困難な貴重な楽譜である。今聴いたばかりの曲の楽譜も眺めてみる。一見簡単そうに見える譜面もあり、「自分でも弾けるかも」と錯覚しそうになるが、もちろんそんなことは絶対ないのは自明である。

休憩のあとは「メランコリックなワルツ」と「ロマンティックなスケッチ」である。いずれも6曲から成る。「ワルツ」の方は、「メランコリックな」と付いているように、哀愁漂う曲だが、それがまた実に良い感じであり、これも今日聴いてお気に入りの曲になった。「スケッチ」は夫の死の翌年に書かれたそうで、深い悲しみや無念さがこれでもかと出ている1曲目に始まり、その悲しみを乗り越えて新たな人生を切り開いていこうという強い意志を込めて、最後は重厚な響きを持って力強く終わるのである。これはなかなか深い作品という感じだ。

全てのプログラムが終わったあとで、2曲ほどアンコール演奏があった。何の説明もなく弾き始めたが、おそらくマリー・ジャエルの作品だろう。終演後に、やはりマリーの作品で、「7つのやさしい小品」より「おとぎ話」と「小さい歌のワルツ」であることを知る。これも素敵な小品だった。

全く未知だった作曲家の全く未知だったピアノ曲を聴いた訳だが、素敵な作品に出会えたと思う。演奏会では作品の背景やマリー・ジャエルについての解説のようなものがあるかと期待していたがそれはなく、それどころか一切のトークはなく(一言も発せず)終わったのである。解説はプログラムに書いてあるので、作品だけに集中してほしいということなのだろう。

会場を出てもまだ銀座は雨だった。
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