最近読んだ本の備忘録。
●「超ディープな深海生物学」 (長沼敦/倉持卓司著、祥伝社新書)
深海はただ珍奇な生物が跋扈する場所ではない。極限の環境で種の維持をかけてせめぎ合う場所なのである。ダイオウイカ、カイコウオオソコエビ、センジュエビ、ユメナマコ、クマナマコ、クダクラゲ、チョウチンアンコウ、ラブカ、リュウグウノツカイ、シロウリガイ、チューブワーム、オオグチボヤ、クセノフィオフォラ、ウミユリなど様々な深海生物の生態などを紹介しつつ、その魅力(?)に迫る本である。深海の生物は、過酷な環境に追いやられた「負け組」ではなく、むしろそのような環境だからこそ安住の地を得ている「勝ち組」なのかもしれない。人間の基準が必ずしも普遍的なものとはいえないのである。非常に面白い本である。
●「消えた市区町村名の謎」 (八幡和郎著、イースト新書)
市町村の改廃の歴史の、マニアックで濃い本である。現在は1,718の市町村が存在するが、そもそも明治中期には15,000もの市町村が存在した。明治、昭和、平成の大合併を経て、名前が消えた市町村名は多々ある。中核となる都市に周辺の町村が吸収合併されるのならともかく、ほぼ同規模の市町村同士の合併だと、どちらかの名前を継承するというのも難しいらしく、新たな名前を創出することがある。平成の大合併にはこの傾向が強い。合併前の市町村名の合成も含めて、何等かの意味がある名前ならいいが、根拠のない瑞祥だったり、広域名の詐称だったりというケースもちらほら。なお、著者は私と同様、平仮名市町村名は嫌いなようである。
●「天才作曲家 大澤壽人」 (生島美紀子著、みすず書房)
長いこと「忘れられた天才作曲家」と言われていた大澤壽人。その「忘れられた」が、21世紀になってようやく取れるようになってきた。この本は「大澤資料プロジェクト」の代表で、大澤作品の普及に尽力している生島氏による渾身の1冊である。大澤壽人は。まだ日本におけるクラシック音楽の受容が浅い頃に、ボストンやパリで学び、斬新な手法で交響曲や協奏曲をはじめ、数多くの作品を遺した。帰国後は、作曲だけにとどまらず、指揮者、プロデューサー、大学教授、さらにラジオの音楽番組を実質取り仕切るなど縦横無尽の活躍を見せた。それが、早過ぎる死のあとは、次第に忘れられてしまったのである。あまりに時代の先を行き過ぎていて、大澤復活は21世紀になるまで待たねばならなかった。先日の演奏会でも作曲後80年を経ての世界初演を聴いたし、これからどんどん大澤作品が聴かれていくことを期待したい。
●「風花島殺人事件」 (下村明著/日下三蔵編、戎光祥出版)
日下三蔵編の「ミステリ珍本全集」の一。下村明は、柔道小説やアクション小説を書いていたが、後年はミステリ小説も書き、この本はそのミステリ小説を収めたものである。表題の「風花島殺人事件」の他、「木乃伊の仮面」、「消された記憶」、「殺戮者」が収められている。私立探偵と若い女性の助手が活躍、夫の失踪捜索や、浮気調査などの依頼を受けて調査しているうちに、関係者が殺人事件に巻き込まれ、複雑な人間関係やそれぞれの裏の顔などが見えてきて、どんどん深みにはまり調査は難航、最後は意外な人物が犯人であったという結末、というミステリ小説の王道のようなストーリーで、それぞれの作品が楽しめる。「風花島(ふかしま)」は大分県深島のことで、別府や佐伯など大分県が舞台となっている。「木乃伊の仮面」と「殺戮者」は、戦中から戦後にかけての闇の部分がからんでくる。下村氏は「忘れられた作家」として経歴すら不明らしい。このシリーズに出会わなければ、私も名前すら知らなかったが、なかなか面白い作品を書いていたのだ。
「忘れられた作曲家」に「忘れられた作家」と奇しくも並んだが、小説も音楽と同様、有名大作家の作品は歿後何年経っても繰り返し出版されて読み継がれているが、その蔭で忘れられた作品も多い。しかし、決して価値がない作品ばかりではない。音楽は発掘されて演奏されて聴くことができ、小説も再び出版されて読むことが出来る。まさに今そういう動きがあるように感じる。21世紀は、「忘れられた」とされた作品が再び蘇り、その良さを再発見することが出来るという、良い時代なのかもしれない。
ログインしてコメントを確認・投稿する