秋の1日、ふと小湊鉄道に乗りたくなった。小湊鉄道の起点の五井へは東京からわずか1時間程度で行けるのに、古き日本の風景のような、どこか懐かしい雰囲気を味わうことが出来るのである。これまでも何度か乗ったことがあるが、途中駅で降りたことがあるのは海土有木と上総鶴舞だけだった。意外と降りていない。そこで今日は小湊鉄道の駅めぐりと題して、いろいろな駅に降りつつ、じっくり堪能したい。
内房方面に出かけるには、新宿から木更津までの高速バスが便利である。新宿駅西口の乗り場に行くと、すでに木更津駅西口行きの小田急バスが停まっていた。(この路線は小湊鉄道バスとの共同運行である。) 早速乗り込むと、相変わらず空いていて乗客が6人しかいない。空いているのはいいが、利用客が少な過ぎて廃止されてはつまらない。もっと利用してほしいと思う。7:15に新宿を発車し、六本木、東京タワー、レインボーブリッジ、お台場、羽田空港、と東京めぐりをしつつ浮島に出て、東京湾アクアラインを通って千葉県へ。袖ヶ浦バスターミナルを経て、木更津駅西口に定刻よりも10分位早く到着した。新宿からの運賃は1,500円である。
内房線のホームに行き時刻表を見ると、8:28発の千葉行きがすぐに来るが、少し遅れているらしい。「車内トラブル」のためと言っているが、乗客同士の喧嘩でもあったのだろうか。迷惑な話だ。結局8分ほど遅れて到着した。五井で下車する。五井に多少遅く着いても、乗れる小湊鉄道の列車は同じだし、全く影響は無い。発車時刻まで時間がまだあるが、すでに小湊鉄道の上総中野行きは停まっていた。改札の外に出る必要もないので、連絡跨線橋でSuicaに下車記録のタッチをして、小湊鉄道のホームに向かう。跨線橋でお弁当も売っている。小湊鉄道の切符売場はホーム上にあり、ここで「1日フリー乗車券」を購入する。1,700円であり、使いようによってはかなりお得な切符だ。小湊鉄道の時刻表もくれた。先の方は本数も少ないので、これが手元にあると便利だ。気まぐれ旅とはいえ、列車の時刻には拘束されてしまう。
(新宿から木更津まではバスで)
(発車を待つ小湊鉄道(五井))
1両だけのディーゼルカーに乗り込む。内房線が到着するたびに少しずつ乗客が増えて、座席が全て埋まり立ち客もいた。ローカル私鉄にありがちな閑古鳥路線ではなく、活気のある私鉄なのである。ディーゼルエンジンの唸りを響かせて定刻の9:22に発車。1日6本(休日)しかない上総中野行きのうちの1本だ。乗務している車掌は女性で、JRからの乗り継ぎ客への切符を売ったり、下車客から切符を回収したりと忙しい。無人駅が多いので大変だろう。内房線の線路を離れるとすぐに田園風景が広がる。上総牛久までは本数も多く東京への通勤圏だが、どこか鄙びた風景が車窓に広がっている。小さな駅で少しずつ客が降りて、上総牛久で立ち客がいなくなった。この駅が五井を除けば沿線で一番乗降客が多い要の駅である。ここから先は本数も激減するが、せっかく上総中野行きに乗っているので、もう少し先まで乗ることにしよう。
列車はさらに市原市の田園風景の中を進んでいく。高滝でも結構降りてだんだんと車内も空いてきた。月崎を過ぎるとトンネルがあり、いよいよ山深くなってくる。最初の下車駅は養老渓谷だ。上総牛久以南では唯一の有人駅で、沿線の数少ない観光駅でもある。降りると「粟又の滝」行きのバスに接続しており、降りた客の多くがバスに乗り換えた。駅前には何もなく、バスに乗らないと観光目的の客は目的地に行けないのだが、今回は駅めぐりがテーマなので、バスには乗らない。誰もいなくなった駅前でぼんやりとしているのもまた良いものである。駅前には土産物店、酒屋、雑貨屋などがあり、とりあえずの買物は出来る。ここまで来る途中は、何もないような駅ばかりだったのだが、一応は観光地の入口駅らしい。
(養老渓谷駅)
(養老渓谷駅の猫)
駅に戻るとホームに猫がいた。専用の(?)椅子で毛づくろいをしている。間もなく上り列車が到着すると、猫が3匹になった。列車の到着に合わせて集まるのだろうか。列車はさっき乗ってきた車両が上総中野から折り返してきたものだ。車掌も同じ人である。2つほど戻って月崎で降りることにした。降りたのは1人だけだった。寂しい無人駅である。駅前にあるトイレだけがきれいで、最近作ったのかログハウス風の造りだ。古い木造の駅舎と対照的である。駅前には唯一コンビニ(ヤマザキショップ)がある他は店は見当たらない。この駅は「市民の森」の最寄駅ということだが、その「市民の森」まで行かなくても、途中がすでに森の中である。駅から数分で森の中だが、こんなところで迷ったら大変なので、あまり先までは行かずに駅に戻ってきた。
上り列車はしばらく来ない。次に来るのは下り列車で、11:52発の養老渓谷行きに乗車する。今度の車掌さんも女性だった。次の上総大久保で下車する。ここでも降りたのは1人だけだった。駅は待合室があるだけの簡素なもので、いわゆる駅舎はない。その待合室に「トトロ」が描かれている。寂しい無人駅に「トトロ」の絵がある理由は、降りてみたら分かった。小学校の最寄駅なのだ。白鳥小学校のための駅で、おそらく通学に使う小学生が多いのだろう。ちょっとだけ駅も楽しくしてみた訳だ。
(小湊鉄道キハ200 (月崎))
(月崎駅)
(月崎駅周辺の森)
(上総大久保駅の「トトロ」)
先ほどの下り列車は養老渓谷で折り返してくるので、比較的早く戻ってくる。20分後の12:17発の五井行きに乗車する。意外なことに発車時刻になると5人ほど現れて同じ列車に乗った。決して小学生以外は利用しない駅ではないのである。車掌さんはもちろん同じ人である。さて次はどこで降りようかと思いつつ、4つ目の高滝で下車した。高滝は高滝湖の最寄駅で、ここも観光駅と言えるかもしれないが、あまりそんな雰囲気はない。駅の近くには学校や公民館などがあり市民の生活が感じられる。駅周辺に活気を感じたのも、そういう生きた施設があるからだ。ただし食事をするような店は見当たらない。気が付いたら正午を過ぎていて、お腹もすいてきたのだが、どうやらここで食事をするのは無理なようだ。湖の方まで行けば何かあるかもしれないが、列車に乗って食事が出来そうな駅で降りた方がよい。しかし上り列車は当分来ない。今度の下り列車が終点まで行って戻って来る列車になるので、下り列車に乗ってもう1駅降りてみることにした。
上総中野行きは高滝13:01発である。今度の車掌さんも女性だった。小湊鉄道の車掌さんはみな女性なのだろうか。2つ目の飯給で下車した。飯給で降りたのも1人だけだ。掘立小屋のような待合室があるだけの駅で、ちょっと離れて見ると、駅があることに気付かないような駅である。もちろん食事が出来るような店があるはずもない。少し歩くと待場橋という橋がある。特にどうということもない橋だが、この橋が飯給という珍しい駅名の由来に関わる場所なのである。大友皇子が壬申の乱で敗れてこの地に逃れてきて落人となった。それでも気品を失わない姿に村人たちは好意を持ち、食事を作って差し上げたのである。それがこの待場橋で、「飯を給ふ」ということから「飯給(いたぶ)」という地名が生まれたというのである。
(高滝駅)
(小湊鉄道キハ200 (飯給))
(飯給駅)
(飯給の待場橋)
「飯給」なのに食事にありつけず、駅に戻る。今度の上り列車は13:54発で、もちろん先ほどと同じ車掌さんである。飯給から乗ったのは1人のみだった。このまま上総牛久まで乗っていった。上総牛久は乗降客の多い要の駅で、ここなら食事が出来そうである。もちろん駅員も居る。駅を降りても、これまでの駅に比べると「都会の駅」である。踏切を渡って少し行くとラーメン屋が目についたのでそこに入った。やっと昼食である。すでに14:00を過ぎている。「珍來」という店で、旨煮ラーメンを食べた。会計時に「ジャンボ餃子120円券」なるものをくれた。いつ使うか分からないが、折角だからもらっておいた。11月30日が有効期限だ。上総牛久駅に戻る。
今度の上り列車は上総牛久始発である。15:07発だ。車掌は月崎−上総大久保−高滝で乗った列車に乗務していた人だ。上総牛久から五井方面は、駅間は田園風景が広がるものの、上総牛久以南とは違って、やはり東京への通勤圏であり、改めて見ると風景も違う。もう1駅くらい降りようと思い、2つ目の光風台で降りた。小湊鉄道で一番新しい駅で、開業は昭和51年である。そのため他の駅とは雰囲気が違う。跨線橋もあり、駅舎もコンクリート製の「近代的な」駅である。駅前にもスーパーマーケットが3つもあり活気がある。沿線の人は、この駅に買物に来る人が多いのだろうか。もっとも小湊鉄道を使って来るかどうかは分からない。
(上総牛久駅)
(光風台駅)
光風台からは15:54発の列車に乗車する。車内はやや乗客が多いが、上総中野始発の列車で、養老渓あたりの観光帰りの客がそろそろ乗ってくる時間なのだろう。車掌はまた女性だった。今日初めて見かける4人目の車掌さんだ。このまま終点の五井まで乗車し、今日の小湊鉄道の旅を終えた。
連絡跨線橋でSuicaをタッチして内房線のホームに向かう。すぐに各駅停車の千葉行きが来るが、その4分後に特急「さざなみ10号」が来るので、こちらに乗ることにしてホームで自由席特急券を買った。内房線ホームから小湊鉄道ホームを眺めていると、先ほど乗ってきたディーゼルカーに1両増結して折り返しは2両編成になるようだ。上総中野行きの「最終列車」である。「さざなみ10号」は5両編成だ。16;20に五井を発車し、蘇我、海浜幕張に停車して東京都内に入ると間もなく地下にもぐり、終点東京に着いた。ここから中央線ホームまでは延々と歩かされる。
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