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2013年10月12日11:10

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【散策】 甲斐北杜 芸術の秋

今日は金曜日だが仕事が休みの日である。秋の1日をのんびり過ごそうと、山梨県北杜市に向かうことにした。朝から雨が降っていたが、天気は晴れるとの予報である。世間は普通の平日なので、電車も通勤客が多いが、まだラッシュのピーク前の南武線で立川に向かう。立川からは特急「スーパーあずさ1号」で小淵沢に向かう。次の停車駅の八王子で乗っていた1号車もほぼ満席になった。中央線の特急はいつ乗っても混んでいる印象がある。八王子あたりから太陽が照ってきたが、高尾あたりでまた曇り空となった。山梨県内を走行中はほぼ晴れていたものの、長坂を過ぎ小淵沢に向けて高度を上げていくと、だんだんと霧の中に包まれていった。小淵沢駅を下りたら完全に霧の中だ。これは予想外だ。標高881mの駅は低地にある駅とは違うようだ。

今回の目的地は北杜市長坂町にある清春芸術村である。ここに行きたくなった理由は特にない。たまたま地図を眺めていたら目についたので、秋の山梨もいいかなと思ったに過ぎない。長坂には特急はほとんど停まらないので小淵沢から行くことにした。ここからバスが出ているということは事前に調べてある。ところが乗り場が分からない。八ヶ岳リゾートアウトレット行きのバス乗り場は分かりやすいが、そちらの方面ではない。観光案内所もまだ開いていないので、駅の売店で聞いてみると、「それは長坂ですよ」という。「いや、ここから9:26のバスがあるはずなんですが」と言うと、そんなのあったかしら?と不思議な顔をした。仕方ないので「結構です。タクシー使いますから」と言いかけたら、もう一人の店員さんが、外に出て確認してくれたらしく、「こちらですよ。長坂行きのバスですね」と案内してくれた。なんて親切な方だろう。もちろん黙って出るようなことはせず、370円のちょっと高級なジュース「高原のしずく」を買った。バスの中で飲むのによい。美味しいジュースだった。

バスは1日4本(休日は3本)しか走っていない北杜市民バスで、まず観光客は乗らないし、観光客や観光客を相手に商売している人も、ほとんど存在すら知らないバスのようである。乗り場も簡素で、知らないと分かりにくい。バスは定刻にやってきて、私の他にもう1人年配の男性だけを乗せて出発した。長坂駅に向けて、北杜市内を走るバスだが、都会の人間がイメージするバス通りとはおよそかけ離れた田舎道や林の中をのんびりと走っていく。もう1人乗っていた客もすぐに降りてしまい、しばらくは貸切状態となった。途中から別の客、年配の女性が乗ってきた。「今日は晴れるって言っていたのに曇ってるわねえ」に始まり、「どこから来たの」、「神奈川県は横浜がいいところねえ」など世間話をする。私のことは、一見して余所からきた人間だと分かったらしい。地元の人しか乗らない田舎の路線バスだ。小淵沢駅から32分ほどで清春芸術村に着いた。信号が全くないので定刻通りの運行だ。運賃は500円。やや高いのは仕方ないだろう。9:58に門の真ん前に着き、開館時刻10:00と同時に入る。案内の人に丁重に迎えられた。

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(霧の中の小淵沢駅)

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(北杜市民バス)

清春芸術村は、1980年にこの地にアトリエ清春荘が設立されたことにはじまる。入口正面の「ラ・リューシュ」は、パリに建てられ、シャガールなどエコール・ド・パリの画家たちを輩出したたアトリエ兼住居であるラ・リューシュを模して造られたものである。敷地内にある清春白樺美術館と光の美術館の2つが有料施設となっている。2館共通券は1000円だ。まずは白樺美術館に入ることにする。入口前のセザールの彫刻「親指」が目に付く。白樺美術館は、武者小路実篤、志賀直哉など白樺派の作家たちが建設しようとして果たせなかった幻の美術館を、両氏と親交のあった吉井長三氏が実現したものである。「祈りの画家」ジョルジュ・ルオーの作品をはじめ。梅原龍三郎、岸田劉生、高村光太郎・智恵子、バーナード・リーチ、中川一政などの作品が展示されている。また「白樺」も全巻展示してあり、絵画や彫刻のみならず文学も堪能できる美術館である。絵画や彫刻には詳しくない、というより疎いといった方がいい有様だし、正直よく分からない作品もあるのだが、それでも静かな空間でゆっくりと絵や彫刻を鑑賞するのは心が落ち着くものである。他に誰もいないため静か過ぎる。空調の音が気になるくらい静かだ。

続いて、光の美術館に入ってみる。こちらは安藤忠雄氏が設計した、自然の光だけで作品を鑑賞出来る美術館である。館内に照明はない。消防法で定められた無粋な非常口の表示だけはある。展示されているのはスペインのアントニ・クラーベの絵画や彫刻だ。クラーベの作品はいよいよ分からない。残念ながら私の鑑賞眼のレベルは低いのかもしれない。音楽で例えれば、さっぱり分からないゲンダイオンガクのような作品か。それでも代表作とされる「赤い点」をしばらく眺めていると、いろいろなイメージが浮かんできた。的外れかもしれないが、どこか日本の山村風景にも見えた。むしろ併設展示されているパブロ・ピカソの絵の方が分かりやすい。

敷地内には他に、ルオー礼拝堂がある。ジョルジュ・ルオーを記念して建設されたもので、芸術家たちの瞑想の場でもあるという。ステンドグラスはルオーが制作したものだ。中にはオルガンもあるが、もちろん勝手に触ってはいけない。

茶室「徹」というのもある。檜の木の上に乗った茶室で、これは中に入ることは出来ないが。ちょっと面白い感じの茶室である。藤森照信氏の設計で、「徹」と命名したのは阿川弘之氏とのことだ。また、エッフェル塔の螺旋階段の一部もある。これは螺旋階段を作り変えた際に、古い階段を24分割したうちの1つだという。パリのラ・リューシュを設計したのもギュスターヴ・エッフェルで、それに因むものであろう。最後に梅原龍三郎アトリエを眺める。これも外から眺めるだけだが、新宿区にあった梅原龍三郎のアトリエを移築したもので、中にはイーゼルや絵具箱、制作途中の絵などが展示してあり、今にも画家が現れて絵を描きそうだ。

敷地内にある白樺図書館は開いていなかった。また、当てにしていたレストラン「ラ・パレット」も改修工事で休止中だった。一通り見たため出ることにした。ラ・リューシュの前に出ると案内の人が出てきた。何しろ今のところ本日唯一の客なのである。中に入ることは出来ないが窓からは覗けるということで、ラ・リューシュの中も解説付きで見せてもらった。外観しか分からなかった茶室「徹」の内部の写真も見せていただき、ついでに画集本の購入などもさりげなく勧められたが、今回はとりあえず遠慮した。交通不便な芸術村にわざわざ来たということで、何らかの芸術に関わっている人に見られたようだが、残念ながらそうではない。桜の季節に来れば満開の桜が見事らしいことも知る。なるほど美術館の入館料金も「桜を守る活動資金に充てる」のが第一で、つづいて「各施設に入館できる」となっている。

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(清春芸術村入口)

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(清春白樺美術館と「親指」)

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(光の美術館 クラーベ・ギャラリー)

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(ルオー礼拝堂)

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(茶室「徹」)

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(エッフェル塔の螺旋階段)

さて、バスまで1時間近くあるが、長坂駅まで歩くとどうかと尋ねたら、上り下りの多い道を30分歩くというので、近くをブラブラしてバスを待つことにした。美術館の前の坂を下りていくと神社がある。藤武神社という。この神社の由来は不明だし誰もいないが、折角来たのでお詣りする。近くにアフリカンアート美術館もあるらしいと聞いたが、場所がよく分からず、やや興味の対象外なので、ゆっくりと芸術村前のバス乗り場まで戻る。朝は霧がかかっていた空もすっかり晴れて富士山もきれいに見える。山梨県にいるのに富士山を見ないと来た気がしないが、これで安心だ。

芸術村のすぐ近くに北杜市郷土博物館というのがあるのを見つけたので見学することにした。入館料は200円だ。1階は地域の暮らしの記録で、古い家の中を再現したものなど、よくある展示である。東山魁夷の「山国の秋」と題する八ヶ岳南麓の昭和3年の風景を描いた絵の複製が掲げてあり、アートに浸ったばかりなので、見入ってしまう。現代音楽を聴いた直後にモーツァルトを聴いたようなほっとする感覚(?)だ。2階は北杜市、というより旧長坂町の鉄道に関する展示がある。日野春、長坂、甲斐小泉駅を中心にした長坂の鉄道の歴史に関するものであるが、その鉄道のおかげで今は東京まで2時間程度で行けるのだから、存在意義は大きい訳だ。メインは企画展示の「北杜惣布物語」だ。北杜市は実はホップ(惣布)の産地だったのだ。この北杜市域内で新種のホップが発見されて、「かいこがね」と命名されて国の種苗登録ホップの第1号となったという。しかし、ホップ栽培の衰退とともに「かいこがね」も平成6年に栽培を終了し、「幻のホップ」となってしまったものだ。その北杜市におけるホップ栽培の歴史を伝えようという展示である。なお、「かいこがね」も北杜市内の「八ヶ岳ブルワリー」によって最近復活したという。「幻のホップ」のまま消えることにならずに済んだ訳だ。

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(藤武神社)

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(北杜市郷土博物館)

バス乗り場に戻り長坂駅行きの北杜市民バスに乗る。時刻通り正確に来た。誰もいない車内に1人乗って、他に客が乗ってくることなく、10分ほどで長坂駅前に着いた。長坂駅は初めてだが、意外と駅周辺は栄えていた。特急の停まる小淵沢よりも長坂の方が市の中心なのだろうか。もともと北杜市は、明野村、須玉町、高根町、長坂町、大泉村、白州町、武川村の7町村が合併して誕生し、のちに小淵沢町も加わって現在の姿になった、峡北地域がまとまった合併都市である。どこが市の中心なのかはっきりしない市である。長坂はオオムラサキ生息数日本一だそうで、駅前に目立つように掲げられている。長坂駅前にあるラーメン屋「四代目丸政」で食事をする。駅前の立ち食い蕎麦のような感じで、あまり期待しないで入ったら、思ったよりも美味しかった。

このあとの予定はないが、小淵沢までとりあえず行ってみようと思う。長坂駅は急勾配の途中にある駅で、ホームに居ても勾配になっていることが分かるが、それもそのはずで元々スイッチバックの駅だったのだ。今の電車の性能ではスイッチバックする必要もないので、スイッチバックはとうに解消されているが、その遺構は残っている。小淵沢行きの普通電車に1駅乗って、再び小淵沢駅に来た。朝は霧がかかっていた駅周辺もすっかり晴れて、気温もかなり上がっている。

折角小淵沢に来たので、八ヶ岳リゾートアウトレットに行ってみようと思う。都内の南大沢や南町田などのアウトレットモールには時々行くが、わざわざ山梨県の端まで買物に行くことはない。しかし、アウトレットモールはブラブラ眺めているだけでも楽しい。駅前からは無料の送迎バスが出ている。今日乗った芸術村への北杜市民バスは、車両は大型バスなのに前述の通りの有様だったが、アウトレットモール行きのマイクロバスはほぼ満席だった。「標高1000mのアウトレットモール」とあるように、駅からさらに登っていく。いかにもリゾート地な雰囲気のアウトレットモールであり、結構賑わっている。今日は平日だが、休日になればもっと客が多いと思われる。特に買物の予定はないが、ひととおり見て回った。雑貨の一つくらい買っていこうかとも思ったが、結局「清里ミルクプラント」でソフトクリームを買って食べただけだ。しかし、このソフトクリームの美味いこと。歩くと迷子になりそうで、実際に帰りのバス乗り場に行くのに少々迷った。気温も上がり、10月の標高1000mの高原とは思えないような暑さだ。今日は東京都心では30℃を超す真夏日だったようだが、山梨も変わらない。帰りのバスは5人ほどだった。

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(八ヶ岳リゾートアウトレット内(1) )

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(八ヶ岳リゾートアウトレット内(2))

小淵沢駅に戻る。あとはのんびりと帰ることにする。特急はしばらくないようなので、普通電車で甲府まで行く。甲府で途中下車をして、駅周辺を少しブラブラして、「かいじ120号」で立川まで帰った。
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