ヴィルヘルム・ケンプ(1895-1991)は、私の大好きなピアニストである。
クラシック音楽を聴き始めの頃、なんとなく買ったベートーヴェンの3大ピアノソナタのLPを聴いてすっかり魅了され、それ以来入手可能なケンプの録音はほとんど買って聴いている。
ピアニストとしては有名なケンプだが、作曲家としてもかなりの作品を遺していることはあまり知られていない。演奏される機会も少なく、CDが少し出ている程度である。
歌曲も100曲以上を作曲しているが、4曲だけフィッシャー=ディースカウのバリトン、ケンプ自身のピアノによる録音が残っている。
そんな中、ケンプの歌曲を中心にしたサロンコンサートがあるというので、行くことにした。
バリトンの井上雅人さん、ピアノの川口成彦さんによる演奏だ。
会場は、三軒茶屋にある「サロンテッセラ」である。
プログラムは次のとおりである。(予告と少し異なっている。)
【第一部】
ケンプ:マイヤーの詩による歌曲
・ローマの泉
・星の下で
・新年の鐘
ケンプ:ゲーテの詩による歌曲
・失い(新ギリシャ恋歌より)
・発見(新ギリシャ恋歌より)
シューベルト:ゲーテの詩による歌曲
・旅人の夜の歌(御身は天から降りてきて)
ケンプ:ゲーテの詩による歌曲
・旅人の夜の歌(御身は天から降りてきて)
・旅人の夜の歌(すべての山の頂には)
【第二部】
(何が演奏されるかお楽しみに)
【第三部】
シューベルト:ゲーテの詩による歌曲
・ガニュメート
・プロメテウス
ケンプ:マイヤーの詩による歌曲
・カナル・グランデにて
・海の歌
・今度は君よ語れ!
ケンプばかりでなく、歌曲作曲家の筆頭格のシューベルトもプログラムに入れているが、ほとんど初めて聴く曲ばかりだ。(前述のフィッシャー=ディースカウの歌で「海の歌」だけ聴いている。)
私に限らず、ほとんどの人が初めて聴くものばかりのようで、井上さんが1曲ずつ丁寧に解説をした後で歌ってくれる。
ピアニストであるケンプの作った曲だからか、ピアノも単なる伴奏ではなく、作品を構成する重要なパートになっている。ドイツ語は聴いても分からないが、井上さんの解説を聞いたあとで、ピアノの音も含めて聴いていると、それなりにイメージが出来るのだ。
ゲーテの同じ詩にシューベルトとケンプそれぞれが付けた曲を続けて聴かせてくれたのもあり興味深かった。
ケンプのピアノ演奏と同じで、温かみのある美しい旋律の歌曲が多いというのが、今日聴いた作品全体の印象である。
「海の歌」の前奏や間奏の美しいこと!
(前述の録音では一部カットしてあるという。作ったケンプ自身が、「自分でも難しいところは省略した」(?)らしいが、今回は楽譜通りに弾いた。)
ところで「第二部」だが、これはプログラムにも記載がない。
何をやるのかと思ったら、ヴェルディの歌劇「マクベス」から2曲だった。
ただし、現行の版では除かれている歌である。
魔女に惑わされうなされる場面で、マクベス夫人との二重唱があるらしいが、初版ではマクベスのモノローグになっていたという。
また、最後は合唱で派手に終わるらしいが、これも初版では刺されたマクベスが息絶え絶えに一人歌うようになっていたという。
(「マクベス」自体をきちんと聴いたことないので、やや不正確で申し訳ない。)
この2曲をドラマチックに歌ってくれた。
ケンプの歌曲を中心にしたプログラムという、あまり一般受けしそうにないコンサートだが、まだまだ埋もれている良い作品はたくさんあるはずで、そういうのを取り上げてくれる演奏家には感謝したい。
ケンプの作品を聴く機会もまだ非常に少ないが、どこかでまた聴く機会があったら、おそらく行くことになるだろう。
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