mixiユーザー(id:4601390)

2019年12月12日21:24

47 view

気儘徒然句鑑賞四十二

無い袖を入れた金庫がここにある(筒井祥文)

 筒井祥文川柳句集「座る祥文・立つ祥文」より。一読、思いだした句が、「無い筈はないひきだしを持って来い」(西田當百)。
 川柳では、句評の際に時事との絡みはよく話題にする。しかし、先行する句のことはあまり言わない。俳句とは対照的ではある。だが、先行句を念頭に置くことで、深く味わえる場合もあるはずだ。上述の句などはまさにそれにあたる。作者もそれを勘定に入れていると考えて良いだろう。
 もっとも表面上は軽々と、そんな思惑は見せない。どちらかというと、中島らものキャッチコピーとされる、「家は焼けても金庫は残る」と似た空とぼけを彷彿とさせる。「無い袖」は慣用句ではあるが、どこか哲学的な想念へと誘うところがあり、そんな物を入れているとはついぞ見えない金庫がまた、厳めしさと裏腹のユーモアを漂わせる。
 先行句を踏まえつつ新たな視点を打ち出しているところ、見事な句を書く男であったなあと、遺句集の前にしてため息をつく読者がここに居る。

1 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する