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2024年04月24日16:47

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死刑台のメロディ

 昔、「ロードショー」誌に、毎号3本くらいづつ過去の名作を紹介するページがありました。
 その中で「アメリカ版『真昼の暗黒』」と記されていたのが、この「死刑台のメロディ」。
 30年以上前にレンタルビデオで初めて観た時「暗黒どころか地獄のド真ん中じゃねえか!」と憤慨したものです。
 その作品が、まさか4Kレストア版でスクリーンに蘇るとは。
 ありがたくて、涙が出ます。

 1920年、マサチューセッツ州ボストン。サッコとバンセッティという二人の貧しいイタリア移民が警察によって不当に拘束。彼らが護身用に所持していた拳銃が32口径であったため、最近発生した強盗殺人事件で使われた拳銃が同じく32口径だったことを思い出した警察はろくに捜査もしないまま二人を容疑者として逮捕します。二人が無政府主義者であったことも災いしました。
 証言も証拠も曖昧なまま始められた裁判は検察と判事の思惑で「有罪間違いなし」のペースで進められ、判決は当然のように死刑。
 弁護側の再調査の結果、意図的な証拠隠しや証人脅迫の事実が浮かび上がりますが、司法当局は移民と無政府主義、社会主義への憎悪に凝り固まっていて、判決を覆すことはありませんでした。

 約100年前の事件ですが、ここで描かれていることがまさに「現在進行形」であることに驚かざるを得ません。
 移民や難民など、外国人に対し向けられる凄まじい憎悪の描写は、まるで埼玉県川口市で起こっているクルド人排撃運動のようで、正視に耐えないものです。
 また、検察官の「我々を差別主義者と呼ぶのは、まさに米国人に対する差別である」という言葉は、自称保守や自称普通の日本人による「差別する自由も認めろ」「レイシストというレッテル貼りをするな」「在日による日本人差別だ」という言い分を想起させます。
 社会の不安定、経済的不安に裏打ちされた恐怖と憎悪が作り出す暴力。それが民衆だけでなく政治や司法の中にまで浸透して暴走し、不正の刃を振るう恐ろしさ。
 それは決して過去のものではないということを、50年以上も前に作られたこの作品は、今を生きる我々に伝えてくれます。
 2024年の現代にこそ、広く観られるべき作品ですね。

 ちなみに、死刑制度は今、世界のどれくらいの国で行われているか。
 現在では、140ヶ国以上の国々が死刑制度を廃止し、その数は増え続けています。
 本作の舞台であるアメリカにおいては51州の中の20州以上が死刑廃止、10州
以上が最近10年間は刑を執行していません。昨年(2023年)に死刑を執行したのはわずか5州だけだそうです。
 執行要領も本作のような電気椅子は今はほとんどなく、薬物投与か窒素吸入によって行われています。
 情報公開も徹底していて、執行時には家族や縁戚者だけでなく弁護士やメディア関係者も立ち会いが可能。執行前の受刑者の様子も事細かに明かされます。これは司法当局が不正や隠蔽がないことを自ら積極的に示すための方策なのだそうです。
 翻って、日本はどうか。
 死刑執行の当日告知・当日執行や、絞首刑という執行方法は今、国連からも問題視されています。また冤罪が多いことも否定できません。免田事件、財田川事件、島田事件などを見れば明白ですね。
 サッコ・バンセッティ事件は過去の、そして他国の話ではないのです。
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