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2023年09月05日16:44

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『映像記録･関東大震災～帝都壊滅の三日間』②

(続き)

「NHKスペシャル」『映像記録･関東大震災～帝都壊滅の三日間』(後編)より一部をピックアップしてレポートする。

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陸軍被服廠跡(*)の惨状を撮ったカメラマンのうちの一人に白井茂がいた。
ここには4万人の避難者が集まっていたが、その内3万8千人が死に、震災最大の悲劇を生んだ。

(*)現東京都墨田区横網2丁目にある都立横網公園にそれはあった。
公園内には東京都慰霊堂があり、震災における身元不明の遺骨を納めその霊を祭っている。のち、東京大空襲の身元不明の遺骨も納められた。
巨大な慰霊堂の近くには、見落としてしまいそうな程小さい朝鮮人犠牲者追悼碑がある。
私は2016年5/23に訪れ、「そのあまりの大きさの違いに、落莫たる思いに囚われる」と日記に書いている。

参)https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1952932387&owner_id=3341406

カメラマン白井茂は焼け野原になった東京で更に撮影を続けた。
地震発生から2日後の9/3、上野で撮影しようとした時の事。

白井の肉声の録音が残っている、
「くりから紋々(入れ墨)の兄ちゃんが立っていて(私達を)通さない。
お前達は暢気だと彼は言うんだ。
こんな時に、活動写真なんか写しやがって、ひでえ野郎達だ、と。
その時分、何でも”殺してしまえ”という言葉が流行った。
何かの話のしまいには、”殺してしまえ”、と」。

家族を失ない、家を失った人々の心は荒み、疲れ切っていた。
そこから、新たな危機が生れる。

1923年9/3～

これは現在の文京区にあった警察署が関東大震災の直後にまとめた報告書だ。
その中にある現象が報告されている。
「流言浮説」、根拠のない噂の広がりである。
「地震は富士山の爆発のせいだ」という噂。
「混乱に乗じて、誰かが飲み水(井戸)に毒薬を流し込んだ」という噂も。
平常心を失った人々の間で、根も葉もないデマが広がっていった。

上野で、一男性の証言、
「上野の動物園の猛獣が来ないか、という噂が流れたのね。
動物園の獣達が檻を破ってこっちへ逃げ込んだらどうしようか、と」。

月島で、一男性の証言、
「あっちでもこっちでも、ポンポンポンポン音がするんですよ。
例えば缶詰みたいなものが膨張して破裂すれば音がするし、竹が焼けてくれば節が音を出す。
そんな音だろうと思うんだけど、いや今のはピストルだとか鉄砲だとか、そういう流言デマが飛んだ」。

佐藤健二教授(東京大学社会学)は、非常時にデマが広がるメカニズムについて研究してきた、
「非常に皆が不安を抱えているし、すごく緊張している。そういう状態の中で解釈が暴走していく。
例えば池の水が濁ったり、井戸が濁ったりというものが、毒を投げ入れられたからだ、薬が投げ入れられたからだ、そういう説明がリアリティを持ってしまう。
非常時、及び緊張している状態の中では、そうした話が暴走してしまう」。

この時、人々は正確な情報を得る手段を失っていた。
ラジオもなかった時代、新聞は最大の情報源だった。
しかし、東京にあった新聞社は、地震と火災で新聞を発行できなくなっていた。
頼りは警察である。人々は交番に駆け込み流言の真実を問い質した。上野の交番、浅草の交番に詰め寄る人々が映像記録に残っている。
しかし、警察も全く機能していなかった。治安の要、日比谷にあった警視庁は全焼、更に電話等の通信手段も失われ、警察の捜査能力は壊滅していた。

政府は東京に戒厳令を出し、5万人に及ぶ軍隊に治安維持を委ねた。
確かな情報がない中、流言を信じた人達が異常な行動に駆られていく。

新宿区神楽坂周辺の記録映像。
リヤカー等で道を塞ぎ、即席の検問所が作られている。
通行人を鋭い目で検問する男達。その一人の衣服を拡大してみると文字は「木炭店」である事が判明した。彼は右手に木刀のような物を握っている。
一般市民に退役軍人等が加わって組織された自警団である。
彼等のターゲットは朝鮮人だった。
朝鮮人達が混乱に乗じて放火や、井戸に毒を入れたという流言が広がっていった。
保護のため(？)に馬に乗って武装した陸軍軍人達に護送される朝鮮人の群れが別の映像に写っている。

江東区永代で、一男性の証言、
「皆気が立っているでしょう。朝鮮人と見たらもう生かしておくな、となっていた。
ピストルで頭をバーンと引っぱたいて殺したり、そんなのが随分あった。
大きな声では言えないけど、警察官が、朝鮮人と見たら殺してくれなんて言っていたんだよ」。

荒川区町屋で、一男性の証言、
「父親が集団の中ではリーダー格になりまして、警護に当たった、自警団を作って。
その時に持っていた棒とか、そうした物に血のりがついていたのを見ていまして、子供心にそれが恐ろしかった。
韓国の方達は濁点が出ませんから、”俺た”と言ったらもう命はないんです。
“ポクは”もダメなんです。”僕は”と言えば助かったのに」。

9/3には流言を信じた政府や警察迄もが、朝鮮人取り締まり強化の通達を出した。
軍人や警官が罪なき人に手を下した例もあったと、公式記録に残っている。
司法省刑事局の報告書『震災後ニ於ケル刑事事犯及之ニ関係スル事項調査書』によれば、立件されただけでも、殺害された人は231人。
別の調査では、数千人が犠牲となったという報告もあり、正確な数は今も分からないままだ。
司法省の調査では、朝鮮人が流言にあるような犯罪に走った事実は認めがたい、と否定された。

画面から拾った同調査書。
ここには「刺殺」「射殺」「撲殺」「殺人」「殺人未遂」「傷害」等の言葉が次から次へ出てくる。

更にクローズアップすると、

詳細欄には、「同居先ヨリ連出シ路上ニテ短刀ニテ刺殺ス」、「仕込杖･長槍･熊手等ニテ殺害ス」、「鳶口等ヲ以テ乱打シタルモ殺害ノ目的ヲ達セス」、「日本刀又ハ手槍ヲ以テ殺害ス」、「竹槍･棍棒等ヲ以テ殴打、創傷ス」、「戟･鉄棒･木刀ヲ以テ殴打殺害ス」等々。

災害時に情報を得る手段としてラジオ放送が開始されるのはこの2年後の事だった。

前出の佐藤健二教授は、またこうも言う、
「切迫した非常時になった時に、ああした情報が暴走しないとは限らない。
今のSNSの中に書き込まれている情報というのは、フェイクニュースみたいなものもたくさんある。
だから、現代の方が逆にインパクトが大きいかもしれない。
通信ネットワークや様々な環境が整備されたから安心だとは言えない」。

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下は8/31の中日新聞関連記事。